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第2話 序編②

 俺は一年の全学科というクラスに編入した。


 適正の赤子として産まれ、そこから術式の発現を既に済ませている者などは、一点集中型の術式科とか、術水科に編入するらしいのだが、条件を何一つ満たしていない俺は、全ての知識と技術を一から学ぶ全学科、というわけだ。


 昨日面接を終え、一通り荷物をまとめて入寮し、初の授業日。


 支給された薄黒の生地に白と紺色で刺繍が施された制服を身に纏い一年全学科に行くと、その教室には既に二人の生徒が入っていた。


 今年の入学生四人のうち、おれを含めた三人は全学科ということか?それとも、あと一人が来ていないだけか。


 しかしよく見てみれば、席は俺の含め三人分しか用意されていなかった。


 やはり俺含め三人か。


 「君も全学科か」


 教室へ入るや否や、眼鏡をかけた黒髪の生徒に声を掛けられた。勿論、初対面だ。


 「あ、えっと」


 「もうすぐ柊先生来るらしいから、ほら、君の席は僕の隣だ。座りなよ」


 「どうも」


 俺は彼に誘導されるまま、一番廊下側の席に腰を下ろした。


 逆に一番窓際に座っている女子生徒は、頬杖をついて窓の外を見つめるだけで、話しかけてくる気配はない。

 

 しかし、俺が席に座った後は、眼鏡の彼も話しかけてくることはなく、しばらく沈黙が続いた。


 「おはよー、みんな。おぉー、みんな制服似合ってるじゃん」


 そう言って教室に入ってきたのは、柊先生だ。相変わらずの緩い感じでの登場である。


 「もう、お友達とは話した?」


 全員が沈黙を貫いた。


 「まぁ、いいや。今日から一年全学科を担当する柊

波瑠明。よろしく。これから、この学府で何を学んでいくか、何をしていくのかを説明するよ」


 柊先生はそこまで行った後、と、でも言うと思った?と続けた。


 「授業の前に、自己紹介でしょ!」


 ハイテンションだな、この人は。恐らく全員が思っただろう。と言うことで、俺たちはまず自己紹介をすることになった。


 「日野遥希です。よろしくお願いします」


 椅子を引いてその場で立ち上がり、二人の方を向いて簡単に自己紹介を済ませる。俺が済ませるとすぐに隣の彼が立ち上がり、自己紹介を始めた。


 「尾盧輪慧(おのりんと)。全学科入学ですが、一応術印は習得しています。どうぞ、よろしく」


 俺、尾盧くん、そして、そっぽを向いたまま離そうとしなかった一番端の女子生徒の番だ。


 「澪玲奈みおれいな。男は苦手。喋るくらいなら全然いいけど、あんまり触んないで」


 ピシャリと言い放つな、と思った。まぁ、そういう人もいるだろうと普通に聞いていた。


 「全員自己紹介終わったね?遥希、輪慧、玲奈。今期の全学科一学年のメンバー、仲良くしてね。あぁ、もう一人入学の生徒は術水科に編入したから。よかったら、後で行ってみてよ」


 ***


 賢術の学府は三年制の学校で、一年を前期と後期で分割。一学年前期は学府での座学や術印の訓練に励み、一学年後期からは個人任務にも積極的に赴くことで成績を伸ばす仕組みだと言う。


 そして俺たちは今、一学年前期最初の授業を受けていると言うわけだ。


 授業というより、オリエンテーションとでも言うべきか。


 「まぁ、予習してきた子もいると思うけど、俺たち賢術師の責務は主に、魔術骸を討伐することで国の均衡と秩序を守る事にある」


 予習は済ませてきた。


 魔術骸。この世に蔓延る、人を喰らい世界に瑕疵を及ぼす、人の姿をした人外の怪物をそう呼ぶ。


 魔術骸の中でも低級の骸を除いては殆ど知性があり、人間を超越した力を持つ。


 「魔術骸に対抗するため、賢術師は術印と呼ばれる特殊な能力を使う。いちいち説明していくから、予習で抜けてるところあったらメモしとけよー」


 柊先生の言葉の前から、俺と尾盧くんはメモの用意を済ませていたが、玲奈さんは前を見つめるだけで特にメモの用意などはしていなかった。


 まぁ、事前予習がよく出来ているのだなと捉えておこう。


 「術印っつうのは、アニメやファンタジーで言う魔法陣みたいなもんよ。で、アニメやファンタジーでは魔法陣に魔力を注ぐじゃん?その魔力みたいな概念を、俺たち賢術師は術水って呼んでるわけ。魔法陣に魔力を注いで使うように、俺たちは術印に術水を注いで使う、簡単に解釈するならこんな感じかな」


 柊先生が術印と術水の関係を黒板に描く。だが、柊先生は黒板に書くためにチョークを握っていない。


 「術水は術印に使用する以外にも、こんなことに使用できる。そら」

 

 柊先生が視線を少し上へ逸らすと、隣に座っていた尾盧くんの身体が突如宙に浮いた。


 「うわっ」


 「放出する術水を上手く操って、物体や人を宙に浮かせることも簡単だ。応用すれば自身で浮遊して移動なんて芸当も不可能じゃない」


 手でチョークを握らなくとも文字を書けているのは、術水操作によりチョークを浮遊させているからだろう。


 柊先生は視線を下へゆるりとずらす。すると、浮遊していた尾盧くんの身体はものあった位置に戻った。


 「尾盧、抵抗できた?」


 「いいえ、身動き一つ取れませんでした」


 尾盧くんは簡潔に答えた。


 「俺と尾盧みたいに、両者に圧倒的な力の差がある場合は、強い方の術水に弱い方は基本的に抵抗できない。術印勝負ってなると、運とか技量も大切だけど、基本的に上の実力の者が勝つことが殆ど」


 要するに、運や技量で格上に勝利することは、よほどのことでない限り不可能に近いと言うわけか。


 「レベルの高い戦闘であればあるほど、相手にとって単純な術水操作による打撃技は意外と節穴なんてこともザラにある」


 「第一に術水の操り方を学ぶのが得策ということですか?」


 尾盧くんが問う。


 「ちょーぜつ単純にいうとそういう事。実際には打撃への自然な術水の流し方、放出する術水の総量調整、その他にも訓練しないといけないことは多いけどね」


 初回授業で既に情報量が多い。無論、授業がこれで終わるはずもなく。


 「まぁ、術水に関して簡単に説明したけど、次は術印に関してかな。尾盧、前に」


 柊先生の指名を受け、尾盧くんが席を立ち黒板の前に出る。


 「術印、見せてくれない?」


 「は、はい」


 徐に尾盧くんは、右手で術印を空に描く。滑らかな曲線で構成された波の流れを表現するが如き紋様。


 やがて完成したものを見て、柊先生はありがとうと礼を言った。


 「尾盧、これは何?」


 「《蒼河印》です」


 「ご名答。閉じて戻っていいよ」


 尾盧くんは術印を解き、席へ戻る。


 「尾盧が描いてくれた今の方陣こそ、俺たち賢術師の扱う術印だ。尾盧は《蒼河印》の刻みを得て生まれてきたんだね」


 今のが術印……。俺も取得すべき、賢術師として必須のスキルか。刻みを得て生まれてきた、ということは、俺の身体にも何かしらの術印自体は刻まれているのか?


 「賢学(うち)に記録のある術印の種類はざっと三〇種類。《神髄印》、《業焔印》、《冥蓋印》、《蒼河印》、《地踏印》っていう五つの術印が起源術印と呼ばれるもので、そこから各賢術師たちが各々に合った派生術印を創り出していくんだ」


 「派生術印?ですか?」


 またもや尾盧くんが問う。


 「そう。例えば尾盧、君の親父が使う術印、覚えてるか?」


 「覚えてるって言うか、教えてもらったことないです。教えてって言っても、見せてもらえなかったし」


 名字の一致からなんとなく察していたが、尾盧くんは、俺をこの学校へ連れてきた尾盧圭代先生の息子か。


 そういえば、俺を瞬間移動でここまで連れてきた時、次元何ちゃらと唱えていたな。あれは尾盧先生の術印だったのか。


 「まぁ勝手に教えちゃうのもあれだし、聞きたかったらどうにかこうにか交渉してよ」


 「は、はい……」


 その時、授業終了を告げる鐘が鳴った。


 ***


 「尾盧と澪は術印発現は既に済ませてあって、日野はまだ発現の段階か。一応、ここ術印発現からサポートする全学科なんですけど……?」


 尾盧くんと澪さんに話を聞くに、術水科に編入した生徒は、二人とは比べ物にならないほどの術印レベルに達しているため、区別化を図るために学長直々に指令が出たらしい。


 「例の実力主義区別ね。年いった老害ほど昔日の思想に染まりやすいんだ。ここの学長、そう言うところあるから。まぁ、そう言うならその術水科の生徒とやらに劣らない育成してやるよ」


 他の二人と比べて、俺はまだ生まれたての赤子も同然だ。早く二人に追いつかねば。


 次の授業の前、柊先生は俺の方を向いて言った。


 「次の授業は術印訓練。つっても日野は俺とマンツーマンね」


 「わかりました」


 次に尾盧くんと澪さんの方を向いて。


 「二人はみのりんに指導もらって。多分みのりん、教諭室で暇してるから。ちょっと悪いんだけど、一人も生徒を取り残して行かないのが俺の教育方針なんだ」


 「勿論」


 尾盧と澪は頷き、渡り廊下を歩いて行った。


 「じゃ、日野。俺たちは術印実習室に行こうか」


 「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










 

とりあえず序章編は次の3話がラストです。なんとなくの世界観を掴んでいただければと思います。

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