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第13話 チェックメイト

 

 街外れの廃墟。


 稔と託斗対濤舞の戦い。どちらも疲弊し、一瞬の油断が瀕死に繋がる程の接戦であった。


 「くっ……」


 (さっきから再生ばっかでこっちの疲弊試合にしかなってねぇ……再生よりも早く技を到達させようとしても、奴の攻撃は攻撃で強力だしよっ)


 「《時操印(じそういん)》」


 託斗が濤舞の間合いに一歩踏み込む。


 (稔をこれ以上ここに留めておけないっ……。早いとこ決着を付けねぇと!)


 「三式[時空歪弾丸(じくういびつだんがん)]っ!」


 託斗の掌で空間に歪みが生じ、それが渦を巻き、やがて弾丸の如く丸みを帯びる。


 それが刹那に行われ、肉薄した濤舞に向かってそれが撃ち出された。


 「!?」


 いびつな弾丸が、一息に濤舞の土手っ腹を撃ち抜き、そこに大穴が穿たれる。しかし、その肉薄した瞬間を狙っているのは託斗だけではない。


 「——馬鹿が」


 託斗の頭蓋に二節棍が振るわれる。


 肉薄していたため先の刃が託斗に刺さることはなかったが、相当な力を加えて振るわれた二節棍。


 託斗の身体が後方へ吹き飛ばされる。


 「頭蓋骨を叩き割るつもりだったのだが……ゲボホッ……」


 胸部を撃ち抜かれた事が少なからず影響を及ぼし、濤舞が吐血する。それがなければ、今頃託斗の頭蓋は叩き割られていただろう。


 (ただ闇雲に身体を削いだところで、あいつには致命傷に留まるくらいだ。一息に身片残らず吹き飛ばすほどの威力じゃなければ、分解身学術とやらで再生されて終わりだ)


 「《時操印(じそういん)》四式——」


 託斗が右腕に術水を帯び、それを歪ませる。


 (ただ、そこをあえて闇雲に術印を撃ち続ける事で、この場に俺の術水を分散させておき、それを拾い集める事で、一瞬では到底出し切れないほどの術水を一度に得る——この刀身に全てを賭ける!)


 「[孤刀時斬(ことうじざん)]っ!」


 術式を使用した後の場には、その際に使用した術水が零れ落ちる。それを掻き集め、一息に凄まじい量の術水を扱う事が出来る。


 拾い集めた術水を用いて託斗の右腕に創造されたのは、時を司る()蒼白(そうはく)太刀(たち)だ。


 託斗が柄を握った瞬間、その刀身が(まばゆ)いほどの光を放ち、直後、それが刀身一点に収束した。


 (奴とて、分解身学術を使用するには魔源と体力を消耗する筈だ。そろそろ俺も術水切れをいつ起こすかわからない状況。奴の方が俺より実力上と考えれば、術水勝負に持ち込んだらこちらの消耗負けだ)


 託斗が太刀を握り締め、一歩踏み込んで濤舞の元へ。


 「凄まじい出力だが、果たしてその刀身が我に届くか?」


 一閃、託斗の太刀が横一文字に振るわれる。


 それを躱し、瞬時に二節棍を突き出す濤舞だったが、その瞬間、濤舞の首に一線の切り込みが入り、鮮血を噴射しながら吹き飛んだ。


 「時間差……だとっ!?」


 濤舞の首が宙で託斗を睨む。


 (あの刀身、何か不可思議な力を纏っていると思ったら、未来、現在、過去の時に同時に存在しうる太刀か)


 「面白いものを持っているではないか」


 吹き飛んだ濤舞の首が無数の肉片に分裂し、一斉に託斗に向かって飛来する。


 「ふっ……!!」


 飛来する肉片に向かって託斗が太刀を振るう——と言う行動の幾秒か直前、全ての肉片が切断され、薙ぎ払われた。


 託斗が現在の斬撃を未来へ送り込んだことで、太刀を振るう前に、目の前の肉片が斬られたのだ。


 (やはり未来にも送り込めるか。これはこれは厄介なものを出されたな)


 [孤刀時斬(ことうじざん)]の太刀は、未来か過去に斬撃を顕現させる。


 現在の瞬間に放った斬撃を、《時操印(じそういん)》の術印と大量の術水を用いて未来と過去に転送すると言うこの所業、初見ならば言うまでも無く、そうで無くても対処の難しい技だ。


 「時野託斗と言ったな、素晴らしき術式の使い手よ」


 濤舞の身体から首が生え、やがて顔が再生された。


 「どうやったら死ぬんだよ、お前は……!」


 「生憎我も、己が死ぬ方法というものを模索中でね。これと言った成果はないが、それも明かせれば君にも我を殺す事が出来るだろう」


 託斗が隙を作らぬ様太刀を横に構える。


 「分解身学術ぶんかいしんがくじゅつ


 濤舞から魔源が溢れ出る。一度で多量の放出、濤舞は次の魔術で終わらせるつもりなのだろう。


 それに対し、集中する託斗が、一歩を踏み込んだ。


 「《混沌之歯車(こんとんのはぐるま)》」


 濤舞の身体が無数の肉片に分裂し、駆ける託斗に一気に飛来する。それを目の前に、抜刀された太刀。


 「はあぁっ——!」


 横一閃に太刀が斬痕を刻む。最も肉薄した肉片には、振るい終える前、未来の斬撃で斬り捨て、また、振るった後に迫る肉片に対しては過去の斬撃で対応する。


 (時野託斗……我の肉片の動きを見極めているだと…?なかなかどうして、油断できぬ相手であるな)


 濤舞の肉片が変則的なカーブやストップを行う。


 「《時操印(じそういん)》一式、[時空隔離(じくうかくり)]っ!」


 だが託斗も隙を見計らい、術水で対象を閉じ込める術印を発動する。


 (拾った術水含め、[孤刀時斬(ことうじざん)]に術水を使いすぎた……[時空隔離(じくうかくり)]も長くは持たないな)


 託斗が太刀を縦横無尽に振るい、[時空隔離(じくうかくり)]に閉じ込められた濤舞の肉片を斬り捨てていく。


 全ての肉片を斬り捨てるには到底至らないが、しかしその数を着実に減らしている。


 (分解身学術ぶんかいしんがくじゅつは、濤舞の細胞の一部を分解するところから分解身を創り出す学術。そして稔の情報が正しければ、肉体を完全に再生する[遺伝調和(いでんちょうわ)]とやらが分解身学術ぶんかいしんがくじゅつの真骨頂らしい)


 一瞬でも速く肉片を斬り捨てるために、未来へ斬撃を送り込みながら一つ一つ確実に、託斗の太刀がその悉くを捉えてゆく。


 (ちょっと待ってろよ…稔。すぐに終わらせてやる)


 託斗が濤舞の意識を自分に向けさせている間に、稔は廃墟の瓦礫の影に身を潜める。


 (くっ……下半身の感覚が……!)


 [大地之恵(だいちのめぐみ)]でも到底癒し切れない、脚の切断による重篤が稔を確実に(むしば)んでいた。


 稔は、自身の両手を胸に置きそこで量を組んだ。そして呟く。


 「託斗……耐えてくれ。俺もすぐに加勢に——」


 数秒後、瓦礫の影で稔の身体は意識を手放した。



 ***



 やがて[時空隔離(じくうかくり)]の効果が消失し、残る濤舞の肉片が一気に解放された。地面を蹴って託斗は一旦後退し、解放された濤舞の肉片を睨む。


 「なかなか……物騒な太刀であるな…」


 《遺伝調和(いでんちょうわ)》にて元の形に戻ってゆく濤舞。


 だが、託斗の太刀により多くの肉片が斬り捨てられ、少々時間を要す様子だ。それを見計らい、託斗が駆け出す。


 (《遺伝調和(いでんちょうわ)》は分解身学術ぶんかいしんがくじゅつの真髄。ならば分解身学術ぶんかいしんがくじゅつの根幹にある、己の細胞を分解して融合する行為が行われているはずだ。つまり、この八百長(やおちょう)の戦いに終止符を打つ方法は——)


 再生中の濤舞に肉薄した一閃の太刀を振るう。その瞬間、託斗が術水を一気に放出し、太刀に纏わせた。


 次の瞬間、突如として再生中だった濤舞の肉体が崩壊を始める。


 (過去に始まったこの再生、そして、未来に行われる再生——両方で行われる細胞の分解、その根幹である奴の再生細胞を断てば良いということ……)


 託斗は、先の一閃で過去と未来に同時に斬撃を送り込み、《遺伝調和(いでんちょうわ)》に不可欠な濤舞自身の分解された細胞を切り刻んだのだ。


 (再生が出来ぬ……これは——っ!?)


 過去と未来、二つの時を同時に斬り裂く太刀を、濤舞の肉体に二撃、三撃、四撃と刻んでいく。


 (再生したはずの肉体すらも斬り裂くというのかっ!?このままでは、本当に……)


 「《時操印(じそういん)》二式」


 託斗が術印を描き、そこから一息に大量の術水を放出する。


 その術水が忽ち、崩壊しゆく濤舞の肉体を包み込む。濤舞は太刀が振るわれぬ今の一瞬で抜け出そうと後退するも、託斗の術水が寸秒か速く濤舞の元へ到達した。


 「[時空圧壊(じくうあっかい)]」


 局所的に時間の流れの一切を停止し、術水で内部を圧迫させて壊す術式、[時空圧壊(じくうあっかい)]。


 濤舞を閉じ込めたその内部の時間が停止する。その時を託斗は待っていた。


 (この一刀で片付ける)


 託斗が躊躇なく太刀で横一文字に一閃を刻む。


 未来へ送られた斬撃が濤舞の胴を、過去に送られた斬撃が濤舞の首を断った。


 吹き飛んだ首が[時空圧壊(じくうあっかい)]の術水から抜け落ち、託斗の足元に転がる。


 託斗が濤舞を俯瞰するように言った。


 「チェックメイトだな、クソ野郎」


 




時を司る太刀、不死身を断つ——!

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