第三夜 3
モンサーム邸に帰って医者を呼ぶよりも街の医院へ直接行く方が早いし確実だ。
御者に頼んで最寄りの医院に寄らせ、エドワードが付き添いとして残ることにした。
「アイラ、ライラを頼む、先に戻っていてくれ」
「はい」
「ライラ、折角の弁当が悪くなるから、戻って君達だけでも食べてくれないか」
「······わかりました」
ライラはエドワードとエルナンの分の弁当を馬車から手渡した。
「ライラ、大丈夫だからあまり思い詰めないようにね」
ライラが頷くと馬車は走り去った。
問題はこれをなんて説明するかだ。
まさか妖精の森の双魚に食いつかれたとは言え無い。
川で釣りをしていて···って、川で魚に手や足の指を食われることはまだありそうだけど、顔を襲われるなんてそうそう無いからな。
結局、よく見えなかったけれど魚のような生き物っていうことで濁した。
医師は、川にいたカワウソやオコジョのような小動物だったのではと言ったので、そうかもしれませんねとなんとか誤魔化した。
出血の割に傷はそれほど深くなく、なん針か縫ったが傷は時間が経てば消えて残らないだろうと言うことだった。
新年の休みで医院が閉まって無くて助かった。
「自慢の美貌が台無しだな」
「······まあな」
「他人の啓示を覗いてはいけないって知らなかったのか?」
「ああ、知らないよ」
悪びれずに言うエルナンに、エドワードは溜め息をついた。
「あんたも大伯父様に師事した方がいいんじゃないか? 妖精の決まり事を軽く見るとか、舐めていると最悪死ぬぞ」
「それは大袈裟だろ」
「過去に他人の啓示を覗いた奴が失明した例もあるんだ。それから、あんたは啓示の相手以外と結婚すると短命になるっていうのも、どうせ知らないんだろ?」
エルナンは、そんなの嘘だろうという表情でエドワードを見つめている。
「短命でなくても、その家門は衰退して結局滅びてしまうと言われているんだよ」
エルナンは更に信じられないという表情をしている。
「だからみんな啓示をなるべく忠実に守ろうとするわけさ、それが納得がいかないものであってもね」
本当にこの男は何も知らないんだということは理解できたが、これはなんとかしなければ危険だとエドワードは感じていた。
またやらかして今度はあの娘達すら巻き込むかもしれない。
これを含めて父上に相談しないとならないだろう。
「短命とか失明とか怖すぎだろ」
「妖精公爵は楽じゃないんだよ」
「なんだそれ···」
「疲れた······。腹が減ったからあんたの分ももらうからな」
エドワードは馬車に揺られながらエルナンの分の弁当もたいらげた。
エドワード達がモンサーム邸に戻ると、屋敷の使用人達が担架を用意して待っていたので、エルナンと顔を見合わせて笑った。
「病人かよ! ありがたいけど大丈夫だから」
ライラ達が心配そうな顔で駆け寄って来た。
「エルナン様、本当にごめんなさい」
「俺のせいだから、気にしないで。そのうち俺の美貌も復活するから待っててね。それから『様』はいらないから。なぁ、エド」
「ああ、エル、エドでもいいし、おにい様でもいいから好きに呼んでくれ」
「ぶはっ、おにい様って」
怪我をしても口の減らない従兄に呆れはするが、場を暗くしないことには長けているなと、その部分だけは認めることができそうだ。
「アイラ、さっきの薬草は効果抜群だったよ。どこで見つけたのか医者に聞かれたよ」
「そうですか。おにい様も手際が良かったですよね、あの薬草を知っていたのですか?」
「騎士になると野営しないとならないから、非常時の予備知識として教わるんだよ。実践ははじめてだったけどね」
アイラと話している途中で、父から呼び出された。
「アイラ、今度二人だけで話をできないかな? 無理にとは言わないけど。妖精絡みのことで聞きたいことがあるんだ」
アイラは少し驚いたように目をしばたかせて「はい」と返事をした。
「じゃあ、またその時に」
エドワードは、父の部屋へと急いだ。




