第二夜
昨夜に続きお開きになってからも、エルナンはエドワードの部屋まで押し掛けてきた。
「なあ、どっちがお気に入りなわけ?」
「啓示を受けたばかりなんだぞ、何でそんなに急かすんだ」
「2年なんかあっと言う間だぜ、ぐずぐずしてると他の奴に二人ともかっ拐われちまうよ」
「···それならそれでいいけどな」
「なんだそれは? 二人とは結婚したくないような口ぶりだな」
なんでこの男に心の内をすべて話さなくてはならないのか。エドワードは腹立たしくて押し黙ろうとしたが、懲りない男の口を塞ぐのは容易ではなかった。
「アイラちゃんのことをどう思う?」
「別に」
「じゃあライラちゃんの方が好みか?」
「そっちも別に」
「俺はどっちでもいいぜ」
エドワードは疲労感に襲われ、長椅子に横になると両手で目を覆った。
「何であんたがあの娘達にそこまで拘るんだ? まさか啓示でそう言われているのか?」
エルナンは意味深な笑いを浮かべた。
「あの娘達のどっちかは俺の仕事への報酬、まあ褒美だな」
「仕事? 褒美ってどういうことだ」
「俺はお前が無事にどちらかを選んで婚約するまでのお目付け役さ。叔父上直々に頼まれたんだよ」
エドワードは弾かれたようにソファから身を起こした。
「父上め、余計なことを!!」
(しかも、よりによってこんな奴をお目付け役にするとは)
「彼女達は物ではないぞ」
エドワードは怒り心頭でエルナンを睨みつけた。
「選ぶのはあの娘達でもあるんだ。こっちが一方的に選ぶわけじゃない」
「どっちにしろお前とは将来の義兄弟だから、よろしくな、お·義·兄·様」
「よせよ、気持ち悪い! どちらもあんたを選ばない可能性だってあるだろ」
エドワードは、不快感からあからさまに顔を歪めた。
「ハッ、そうならないよう抜かりはないさ」
「あの娘達はまだ13歳だぞ、絶対におかしなことはするなよ」
「そういえば、アイラちゃんはお前のことをお兄様って呼んでたろ、あれは何で?」
「······知らないよ、そんなことは」
そう言えばすっかり忘れていたけれど、何年か前に挨拶した時も、確か「おにい様」って言っていたような···。
アイラだったのかライラなのか覚えていないけど、あの時は、それは彼女達がまだ子どもで小さかったからそう呼んだのだと思って気に止めてもいなかった。
アイラのそれも特別意味はないんじゃないだろうか。
次の日の遅めの朝食後、アイラを見つけると、エルナンは開口一番そのことを彼女に聞き出した。
「おにい様はおにい様だから」という回答が返って来た。
「それってアイラちゃん、エドワードが好きってこと?」
「おいっ!」
この従兄は本当に余計なことばかりする。
「嫌いじゃないけど、好きではないです」
「·······」
そう言われた方は一体どんな顔をすればいいのだろうか。
そんなエドワードを見てエルナンは爆笑している。
(まったくこいつは)
でも、好かれてはいなさそうだとは思っていたから、想定内だ。
このまま消去法でいくと、ライラになってしまう。
こんな消去法なんかで決めていいのか?
ライラが嫌とか、嫌いとかではなくて、自分には他に好きな娘がいるから、恋愛対象として見れないだけだ。
仮に両方に自分が好かれていなくても、それでもどちらかを選ばなければならないんだ。
それに、自分が選ばなかった方をエルナンが妻にするなんて、本当にそれでいいのか?
妖精の啓示による結婚なんて、彼女達にだっていい迷惑、酷なことかもしれないのに。
だからこそなるべく彼女達の負担にならないように、慎重に進めたいとエドワードは思っていた。
「ねえ、これからみんなで妖精の森に行かないか?」
唐突にエルナンは言い出した。
「ピクニック感覚で大勢で行く場所じゃないだろ」
「みんな一族なんだから、いいじゃないか」
エルナンは無視して、メイドに4人分の弁当を用意させてしまった。とにかく自分勝手で押しが強い従兄にこれ以上振り回されたくない。
後で父上に絶対に抗議しようとエドワードは決めていた。