第一夜 2
二人を前にして、どちらがアイラなのかまったくわからない。
いくら双子とはそういうものなのだとしても、同じドレスに同じ髪型、靴やアクセサリーすらお揃いなんて勘弁してくれと思えてしまう。
目の前の二人は、月並み過ぎる例えで言えば、まさに双子の妖精のようだった。
妖精公爵一族にそんな褒め言葉は褒め言葉ですらない。だから仮に思ったとしても、そんな不粋な言葉は決して口にはしないものだ。
妖精達にどちらがアイラなのか心話で聞いても、笑っているだけで教えてくれる気配はなかったので、それはもう諦めた。
「新年おめでとう、モンタークのエドワードだけど覚えているかな?」
内心は新年を祝うなんて気分では全くなかったが、エドワードは必死に笑顔を作った。
「·······」
金髪碧眼の整った顔立ちで微笑めば、大抵の女性はすぐに好意的な反応をしてくれるものだったが、この双子達には通用しないようだった。
「ハハッ、さすがのエドも形無しだな」
エルナンは薄茶色の髪と若草色の瞳、少しタレ目で愛嬌のある顔立ちをしている。
デリカシーのないお喋りな男だから、彼にはエドワードも度々辟易とさせられていた。
少し間をおいて「エドワード様こんばんは」と一人が応えた。
「ええと、君はどっちかな?」
「ライラです、よろしくお願いいたします」
「ライラちゃん、俺はエルナン、よろしくね」
この従兄の遠慮しない性格が羨ましい。
「おにい様、エルナン様、こんばんは」
ようやくもう一人が口を開いた。こちらがアイラかとエルナンと共に見やった。
姿形だけでなくて声まで似ているとは、これは手強いなとエドワードは溜め息を心の中でついた。
エルナンがライラにダンスを早速申し込み、彼女を連れて行ったので、アイラと二人きりになった。
「君は妖精が見えると聞いたけど、ライラもなのかな?」
「いえ、姉には見えません」
「君は子どもの頃から見えていたの?」
「そうです」
エドワードはライラが姉だとこの時はじめて知った。それ程今まで彼女達に興味もなく来たという証拠だ。
「じゃあ啓示も受けたりするのかな?」
「時々」
「例えばどんな内容?」
「···全部は覚えていません」
彼女は自分と同じように、結婚に関する啓示を受けたのだろうか?
もしそうならば、自分が結婚相手かどうかを知っているとか?
「最近受けたものは、どん···」
確認するために聞こうとした途中でエルナンらが戻って来た。
「君達は踊らなくていいのか? アイラちゃんも俺と踊ってくれるかな?」
「わ、私は踊れません」
「じゃあ教えてあげるよ」
「えっ?!でも···」
エルナンはいいからいいからと、ほぼ無理矢理アイラを連れて行ってしまった。
「アイラは妖精が見えると聞いたけど、君は妖精は見えないの?」
「は、はい、私は見えません、申し訳ありません」
ライラは瞳を曇らせた。
「いや、責めているわけじゃないから」
エドワードは気まずい雰囲気になって困ってしまった。
「······妖精なんか、見えない方がいいこともあるよ」
「そうなんですか?」
ライラはパッと晴れやかな表情になった。
「見えない方が困らない」
「ふふっ、アイラも同じようなことを時々言っています」
碧色の瞳が明るさを取り戻して輝いた。
「もし良ければ、踊ってもらえるかな?」
「はい、喜んで」
13歳ならばまだ社交界にはデビューしてはいないだろうけれど、所作も美しく受け答えも丁寧で、小さな淑女といった風情のライラに好感を抱いた。
彼女の碧の瞳は、エドワードがこれまで想いを寄せていた令嬢の瞳と似ていて、少し切なくなった。
「踊ってくれてありがとう、疲れなかった?」
「とても踊りやすかったです」
「ダンス、上手だね」
「本当ですか?」
ライラは嬉しそうに少し頬を染めた。
ダンスを踊る人達の輪から抜けて元いた場所に戻るとと、エルナン達が待っていた。
「なになに、なんかもう二人ともいいムードじゃないの」
アイラはエルナンに引き回されて困っているようだった。
「もし疲れていなかったら、踊ってもらえるかな?」
二人には公平に接したいと思えたので、断わられたとしても誘うことだけはしておきたかった。
「もうダメです、足が痛いです」
「じゃあまた今度」
アイラの率直な受け答えは心地よい。見た目は同じでも、やはりそれぞれに個性があるんだなと少し気分が楽になった。
話してみれば、少しずつ見分けがつくようにはなりそうだったからだ。
まだ2年あるから、ゆっくり見極めて行けばいい。
それよりも、自分はあの侯爵令嬢のことを早く諦めなければならないのだ。