第六夜
ライラは、エルナンが怪我をして前回の啓示が中途半端になってしまってから、啓示を受け直してみたいと思っていた。
自分だけでは意味がわからなかったり、対応に困ってしまったりするからエドワードに付き添いを願った。
前回見えたのが、双魚が大甕の底から花冠の欠片を咥えて浮上してきたということをエドワードに伝えると、
「うーん、それは俺もよくわからないな、俺の見る啓示の見え方とはちょっと違うかもね」と返答され、やっぱり見える人とは違うのだなと少し落ち込んでしまった。
それじゃあ、一緒に行って試してみようよと、エドワードはこの前の弁当とは別の、エドワード好みのサンドイッチを頼んでメイドに用意させた。
泉へ到着すると、エドワードがライラのために花冠を作ってくれた。
前回と同じ要領で泉へ花冠をそっと浮かべ入れた。
もしまた同じような状態になったら、受け取れそうなら受け取り、嫌な感じや怖い感じがしたら、無理に受け取らずに見ているだけでいいと思うとエドワードが言ってくれたので、今度は心の準備はできていた。
エドワード様には、同じように妖精が見えるアイラの方が本当は良いのではないか。
アイラの伴侶のルパート様が見つかっても、心のどこかでそう思ってしまう。
私もアイラのように妖精を見ることができたらいいのに。
そうすれば···
と、心の中でライラが思った瞬間、
『じゃあ、そうしてあげるよ』
どこからかそんな声が聞こえたような気がした。
そしてパチンと指を鳴らすような音も聞こえた。
水中では、双魚が前回と同じように花冠の欠片を咥えながら浮上してきている。
前とは違っていたのは、もうすぐ魚が顔を出そうとしている水面の少し上の付近で、銀の光の玉がチカチカと光りはじめたことだ。
これは何?
これが啓示なの?
双魚が水面に小さな音をたてて顔を出し、咥えていた欠片をフンッと光の玉の方に放り上げた。
次の瞬間、その花冠の欠片は、ライラが求婚された日、エドワードが急ごしらえで摘んで作った花束そっくりに姿を変えた。
『ライラ、婚約おめでとう!』
その声と共に銀の光は小さな妖精の姿になって、ライラに花束を手渡した。
離れたところで自分を見守るエドワードの方をチラリと見ると、驚いて固まっているのが見えた。
「妖精様、ありがとう」
『フフッ、様はいらないよ』
「ありがとう、妖精さん」
ライラの視線は、妖精が見えている者、妖精と語らっている者の視線だった。
「え?! ライラ、妖精が見えるの?」
「はい、なんだか見えるようになってしまいました」
「泉から物体が現れる啓示なんて初めて知ったよ。君はアイラと双子だから、元々見る力は備わっていたんじゃないのかな」
『そうそう、双子だからね』
『当たり前さ』
妖精達も同意した。
「ええっ?! そうだったのですか?」
『ライラは、アイラと同じような形で見えないことで、自分は見えない、見えていないと思い込み過ぎてしまったせいで、自分の力を閉じ込めていただけなのさ』
「本当に?」
『啓示の見え方は、親兄妹でも、例え双子でも人それぞれ違うものさ。啓示は本人だけの唯一無二のものだから、自分以外の人の啓示を覗いても意味はないんだ。誰かと一緒に見て相違があれば混乱するだけだろ? 場合によっては他者には秘匿が必要な内容の時もあるからね。だから他人の啓示を覗くことは禁じられているわけさ』
ライラは信じられないという気持ちと、嬉しさが同時に込み上げて来た。
私にも見えるんだ。見えているし、聞こえている。それに妖精と話せている。
それがこんなに嬉しいなんて。
「だけどライラ、このことはエルには当分内緒にしておこう」
「エル君が拗ねると大変ですからね」
「そういうこと!」
前回の啓示は、妖精達が言うには、もうすぐ求婚されるよというお知らせをしたかったらしい。
今日のような花束ではなくて、花を一輪だけ見せる予定だったとか。
「それだったら私、見せられても何のことかわからなかったかも···」
「はははっ、全部が全部理解できるわけじゃないからね」
「このサンドイッチ美味しいですね」
「気に入ってくれて良かった」
「今度私も家で作ってもらおう」
ローストチキンにピリ辛ソースと野菜と果物を添えたエドワード好みのサンドイッチを木陰で食べながら、二人は自分達の今後のことについて互いに照れつつもあれこれ話し合った。
この日妖精から渡された花束は、二人が生涯を終えるまで枯れることはなかったという。




