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第五夜 1

昨日は深夜までライラの婚約を祝っていたから、アイラは寝不足だった。

にもかかわらず、妖精から森へ来るように誘いを受けた。


昨夜やっとライラと二人りきりになれた時、おにい様の相手がライラだということを知っていたのに、ずっと言わずに来たことを泣きながら謝った。


「もっと早くに知っていたら、こんなにドキドキしたりしなかったかも。それに突然求婚されて腰を抜かすこともなかったかもね? だからね、今日まで知らずにいて良かったと思うの」


ライラは今まで見たこともない幸せそうな顔で応えた。


ずっと一人で悩んでいたのに気がつかなくてごめんねと、おにい様とまったく同じことを言って、私のことは何も責めなかった。


しかも、アイラも幸せになってねと、私の涙を拭ってくれた後に力一杯抱き締めてくれた。

早くアイラも啓示の人に会えるといいねと。


ライラが幸せになるのはとても嬉しい。でも今はライラの傍にいることがちょっとだけ苦しい。


こんな気持ちになってしまってごめんね、ライラ。


だから一人になりたかった。

妖精が森へは必ず一人で来てと言ってくれて良かった。

そうでないと、ライラも一緒について来たと思うから。


ここなら、いくらでも自分の心が出せるから。


自分はエドワード様をおにい様としか呼べないことは、ずっと前からわかっていた。


エドワード様でなくて「おにい様」と呼んでいたのは、自分に言い聞かせるためもあった。この人はおにい様になる人なのだから、好きにならないようにしないと。

おにい様はおにい様なんだからって。


毎年の新年の集いでしかお会いしてはいなかったけど、新年がくる度におにい様はどんどん素敵になっていった。

でも、そう思っていたのはライラも同じだった。

ライラがそう思うのは当たり前だ。だってライラの啓示の人、エドワード様の啓示の人なのだから。


エルナン様にからかわれた時、「嫌いじゃないけど、好きじゃない」って言わないとならなくて辛かった。


おにい様と昨日二人きりで沢山話をして、できるならずっとこのままこうしていたいと思ってしまった。

だからあんなに自分でも驚くぐらい泣いてしまった。

今までずっとライラ達に黙っていた苦しさから解放されて泣いたのも嘘ではないけど。


おにい様があんなに私の感覚をわかってくれて凄く嬉しかった。


どうして、おにい様の伴侶はライラで、私ではないの?


私の伴侶は別の人だと、少し前から妖精に言われていたから知っていた。その人が長い黒髪の人だということも。

顔はぼんやりとしか見せられていないから、よくわからない。名前もまだ教えてはくれない。


でも、もうすぐ会えるからねって妖精達は嬉しそうに言って来る。

どうして妖精達が喜ぶの? 私はそんな気分にはなれないのに。



アイラはぼんやりと泉を見つめていたので、誰かが近づいて来ていたことに気がつかなかった。


「先客がいたのですね、これは失礼」


アイラは声の主の方へ振り向くとハッとした。


「おにい···様?」


アイラが振り向くと、長い黒髪を緩やかに後ろで結わえた、黒曜石のような艶やかな瞳の青年が立っていた。

しかも、背格好も顔立ちもエドワードに似ていた。


髪と目の色が違うだけの、まるでおにい様みたい。でももう少し年上の大人の人だ。


『ウィル、久しぶりだね』

『久しぶり~』


妖精達が声をかけた。


「ああ、ご無沙汰だったね」

「······ウィル?」


あっ! もしかしてウィリアム大伯父様?!


でも、それならもっとお年寄りなのでは?


それにご病気だとみんなが話していなかった?


······じゃあこの人は?


「ルパート·ウィリアム·フォークナーです。貴女のお名前を伺っても?」

「もしかして、ウィリアム大伯父様でいらっしゃいますか?」

「ええ、私が新しいウィリアムです」

「新しい?」


妖精達が近寄って来て、アイラに『彼だよ、彼』『彼だからね~』と耳打ちした。


「えっ?! えええ······!」


「当伯爵家では、ウィリアムという名を歴代の当主は引き継ぐことになっているのです。私は初代から数えて4代目、先日隠居した先代から引き継ぐことになったばかりなのです。どうぞお見知りおきを。ルパートとお呼び下さい、可愛いお嬢さん」


4代目ウィリアムは、涼やかに微笑むとアイラの手の甲に恭しくキスをした。


「アイラ·モンサームと申します、······お会いできまして光栄です」


耳まで真っ赤になりながら応じたアイラに対して、今度はルパートが左手を口に押し当てながら赤面しはじめた。


「あ、貴女がアイラ嬢だったのですね······!」


『そうだよルパート、この子だからね』

『そう、この子さ』

『この子だよ』

そう口々に言いながら銀色の妖精達は飛び去って行った。

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