第四夜 2
「何こそこそ二人で会っているんだよ」
アイラと話を終えて、一人で東屋に残っていると、エルナンが文句を言いにやって来た。
「アイラは俺の伴侶候補だ。それでも密室での面会は避けているんだから、文句を言われる筋合いはない」
「俺はお前のお目付け役だ」
「お目付け役は降りてくれ。父上にもそれを頼んである。あんたの再教育には付き添うけどね」
悔しげに顔を怒りで染めながらエルナンは去って行った。
お茶のお代わりを聞きに来たメイドに頼んで、東屋に今度はライラを誘った。
もちろん二人きりで、アイラと公平になるように配慮した。
「ごめんね、急に呼び出して」
「いえ、お話はなんでしょうか」
「うん、この前の妖精の森で啓示試しをした時に、もし見えたりしたものがあれば教えて欲しいなと思って。無理にではなくてもいいよ」
しばしライラは黙っていた。
「···アイラとは···どんな話をしたのですか? 啓示のことについてですか?」
「そうだよ。他にはお互いの妖精の見え方とかについてだね。後でアイラにも聞いてもらえばわかるよ」
「······そうですか」
ライラは唇を噛んで何かを耐えているようだった。
「どうしたの? 何かあったのか?」
エドワードがそう言うと、それきりうつむいてしまった。
「うう······、ぐすっ」
「えっ?! 待って、どうしたのライラ、なんで泣くの?」
「エルナン様が、エドワード様はアイラを選んだみたいだから、もういくら二人で会ったって無駄だよって······ううっ」
全くあいつはろくでもない。
あれはもう、殺······。
あまりの怒りで、黒いエドワードが覚醒しそうになったが、泣いているライラをなんとかする方が先だった。
「エルナンはホラ吹きだから、あいつの言うことは信用しない方がいいよ。それにライラ、君の泣いている理由って、まるで俺への告白のように聞こえてしまうんだけど······」
「えっ」
ライラは耳まで真っ赤になっている。
「ライラは、最近俺が受けた啓示の内容はもう知っているんだね?」
「···はい」
「もし君が選ばれたら、困ったりしない?」
「は···い」
「······わかった」
俺への妖精の啓示は「双子のどちらかを選べ」だったけど、その双子の一人であるアイラには俺は伴侶ではなくて、他の相手が伴侶になるという啓示が出ているということは、これはそもそも、二択ではなくて、はじめから一択なんだ。
迷う必要も悩む暇すらないほどに。
全く妖精の奴め、紛らわしいっ!
最初からライラならライラと言ってくれ!
エドワードは覚悟を決めて深呼吸をすると、
「ライラ、ちょっとだけ待っててくれ、すぐに戻るから」
席を立つと東屋の周りの植え込みへ進んで行った。
すぐに戻って来て、摘んで来たばかりの花をライラへ差し出すと、跪いて言った。
「ライラ·モンサーム嬢、どうか私エドワード·モンタークの伴侶になっていただけませんか」
ライラはあまりに驚き過ぎてすぐに応えることができなかった。
「君はまだ13歳だから、正式な婚約は16歳以降、結婚は学園を卒業後になると思うけど、それでもいいかな?」
ライラは腰を抜かしてしまっていた。
結局立ち上がれないライラを抱き上げて部屋まで運んだのだが、邸につく前に突然霰が降りだして、メイドが慌てて駆けつけてライラに霰避けの布を被せた。
エドワードが手渡した花はブーケ、霰避けはベール、霰はさながらライスシャワーのようで、ライラはまるで結婚式で花婿に抱き上げられた花嫁のようだったと、この日その様子を目撃したメイド達は口々に語った。
二人はその日のうちにあわただしく仮婚約を結んだ。
エドワードの急転直下の婚約で、新年に集まっていた一族らは、新年祝賀から婚約祝賀に切り替えてお祭り騒ぎとなった。
求婚したという報告を受けたエドワードの父も腰を抜かしそうになっていた。
「昨日の今日だぞ!? 何があったんだ?」
「一族の大切な双子の令嬢達を、どこぞのバカ息子にこれ以上傷つけさせないためです」
「···エルナンか?」
「故意に嘘を吹き込んでライラを翻弄し泣かせていました。こんな状況下で2年も決断を延ばせば、バカ息子によって彼女の心は壊れてしまうでしょう。それから、妖精の啓示は二択ではなくて一択だと気がついたからです」
「何!? 一択だったのか?」
「アイラは、私が伴侶ではないことを6年も前から妖精に教えられ知っていました。彼女の伴侶は近いうちに誰なのかわかると思いますよ。父上、今年は祝い事が続きそうですね」
こいつはたまげたとでも言いたげな父の顔を見て、エドワードは得意気に微笑んだ。
エドワードとライラが婚約したその日、エルナンは負けじとアイラに求婚していたが、アイラに「私の伴侶はあなたじゃない」と即答され撃沈したのだった。
お目付け役を解任するまでもなく、エドワードが婚約したために、自然消滅した。




