一目惚れ
なるかみの
おとにめぐりし
もちづきの
たれりかかやく
かたちさうなし
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公式企画「俳人・歌人になろう!2023」参加作品です。
▼小説家になろう 公式企画サイト
https://syosetu.com/event/haikutanka2023/
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僕の名前は影城徹、烏玉高校に通う普通の高校1年生だ。
遅刻にならないギリギリの時間に通学し、つまらない授業を聞くふりをしながら船をこぎ、休み時間はライトノベルを表紙を隠しながら読み、帰りはまっすぐ家に帰る変わり映えのしない生活をしている。
週に1度、新しいライトノベルを手に入れるために図書館に寄り道することはあるが、誤差の範囲だろう。
休日は嫌々宿題をやりながら、ライトノベルの関連グッズを買いたいと思いつつパソコンを眺めているとすぐに終わってしまう。
グッズを自作しようと試みたこともあったが、そもそも形にならなかった。
お金もなければ、器用でもないらしい。
友達と遊んだりしないのかって?
べっ、別に羨ましくなんてないさ。
これでも頑張った方なのだ。
高校生デビューたるものをしようときのこヘアーにしてみたのだ。
コンタクトレンズは痛すぎて断念した。
せっかくやってみたのだが、クラスメイトはほとんど話しかけてくれなかった。
やはり瓶底眼鏡は印象が悪いのかもしれない。
話しかけてくれた奇特な人に返事をしようとするのだが、どうしても伝わらない。
自分は発語していると認識しているのだが相手には理解して貰えないようだ。
以前、母に自分の話している声を録音したボイスレコーダーで聞いた時は、自分の声のはずなのに聞き取れなかった。
高校に入るときまでには練習して直したから大丈夫だと思ったのに。
そもそも話すのには勇気がいる。
その決心をするのに時間がかかってしまい反応が遅れることも、伝わらない要因の1つだろう。
そういうわけで、クラスメイト全員から気味悪がられていしまった。
そこからは地縛霊のような不気味な存在としての扱いをうけている。
具体的には誰からも無視されている。
まあ、いじめられて実害が出るよりはましだ。
母にはこのことはおくびにも出していない。
物価高で生活も苦しいのに、バイトに明け暮れずともしっかり食べさせてもらって、さらに何の不自由なく高校に通わせてもらっているのだから、感謝すれども心配させるようではいけないだろう。
任意という名で強制される夏期講習のせいでほとんど休みらしい休みが無かった夏休みが終わった始業式の日、朝立に当たってしまい、ずぶ濡れだ。
物憂し。
こんな時はライトノベルを読んで気分転換をしようと窓際の一番後ろの自分の席に向かったのだが、なぜか席が後ろに1つ増えている。
そして辺りがやたらと騒がしい。
周りでささやかれている噂によると今日転校生が来るとのことだ。
なんでも財閥、いやこの表現はおかしいか、大企業グループのご令嬢なんだとか。
どうしてこんな時期にと思ったが、海外留学から帰ってきたそうだ。
なるほど、欧米は9月スタートか。
特に気にせず、いやライトノベルを読むときに少し視線が気になるかもなと思いながら席に座っていた。
すぐに朝のHRが始まり担任のバーコード頭が入ってきた。
そして転入生の出席も取らずに転入生の紹介を始めた。
なんか少し鼻息が荒い。
いい歳こいたじじいなんだから少しは自重しろよ、この焼け野原と思いながら、話半分に聞く。
噂通りこの高校の運営もしている月兎グループのご令嬢で名前は「月ノ宮冷華」というらしい。
名前を覚えるのが苦手な自分はどうせすぐ忘れてしまうだろう。
とうとうご本人の登場だ。
斜に構えていたのだが、一目見た瞬間、脳に、そして全身に電流が奔った。
視界が明滅した。
柳眉、蛾眉、傾城、傾国、沈魚落雁、明眸皓歯、氷肌玉骨、羞花閉月、いや、月並みな言葉では表せない、形而上でしか存在し得ないはずの完璧で究極の美が教壇の上にあった。
すまない、担任のおっさん、興奮するのも無理はないと心の中で謝った。
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和歌は漢字に直すと「鳴る神の 音に巡りし 望月の 足れり輝く 姿双無し」
訳は、
「噂になるほどの(月ノ宮さんの)満ち足りて輝いている姿は比類ないほど美しい」
となります。
表現技法の解説は次の通り、
鳴る神のは音(噂の意)を、望月のは足るを導く枕詞であり、巡ると月が縁語となっています。
望月は月ノ宮さんを意識して盛り込みました。
感想等お待ちしております。
誤字報告、語句の誤用などの指摘はとてもありがたいので、是非お願いしたいのですが、文体はなるべく優しく、あくまでも優しくお願い申し上げます。