医者
里見視点
「行けるか?春華」
『もちろん、いつでもどうぞ』
さすがはオレの相棒、肝が座ってる。
「調子に乗るなよ?お前はオレ達には絶対に勝てねぇんだよ。さっきのガキ同様、お前はぶった斬る」
さっきのガキってのは八九師の事か、アイツはそんなにヤワじゃねぇだろ。
「やれるもんならやってみろ」
オレは斬撃を放ち、奴の動きに注目する。
「斬真・一閃」
オレの横薙ぎに振るった斬撃は、奴に向かって一直線に飛んでゆく。
それを奴は、タイミングを計りしゃがむ事で回避する。
だが、そのしゃがんだタイミングはオレ達からしたら絶好のスキだ。
オレは奴がしゃがんだのを見た瞬間前に飛び出した。
だが、飛び出した瞬間、ニヤリと奴の笑みを見たオレは、地面に足をつけてブレーキをかける。
しかし、その時には奴の刀の能力で先程割れた地面がオレの足を巻き込みながら修復されてゆく。
『なに!?』
やっぱり何かあったか!
オレの反応と違い、春華は驚きを見せていたが、慌てずに対処すればいい。
「春華!!!斬真で抜けるぞ!!」
『ハッ!!そうね!!』
「斬撃を足元に放って逃げる気か!!その前にぶった斬ってやる!!」
男が真っ直ぐこちらに向かってきたが、大丈夫、まだ間に合う。
オレは奴の小太刀を防ぐ為、防御に集中する。
ガキィンと奴の刀を防いだが、奴はそのまま刀を押し込んでくる。
「これなら刀は振れねぇ、斬撃も出せねぇだろ」
確かに、この体制だと刀は振れねぇ、だが、別に今更刀を振る必要はない。
「忘れたか?オレはもう斬撃を出してるんだぞ」
「なに?……まさか!!?」
ズドン!!
オレは先程牽制で放った斬撃をオレの埋まった足元目掛けて真上から落としてやった。奴の腕を巻き込みながら。
「ぐっぐあぁぁぁ!!!」
『やったわね康太!!』
「あぁ、だがまだだ、治癒される前にケリつけるぞ!!」
「浪詩!!!」
小太刀が人の姿に戻り、奴の身体に手を触れようと駆け寄るのが見えた。
そんな事させる訳にはいかない。
オレは真っ先に女の方を狙った。
「……ッ!!?」
「…すまない」
ズバァン!!と、女の身体を斬って戦闘不能にする。
「かはぁっ!!」
戦うことの出来ない男か、回復させる力を持つ女か、どちらを先に狙うかなど火を見るより明らかだろう。
「時奈!!!」
時奈…そうか、アイツの能力は時を操っていたのか。
「これで終わりだ」
そして最後に男の方を斬り、オレの勝利でこの闘いは終了する。
「そん…な…」
奴は倒れ、灰となって散ってゆく、
契りをかわした刀とその持ち主は殺されると塵となって消えてゆく。どうしてそうなるのかは分からんが、それがこの闘いの敗者の行く末だ。
「……すまない」
オレは今回の闘いで、切った全ての奴らに一言謝った。
そして、人の姿に戻った春華が、オレに聞いてくる。
「ねぇ、どうして康太はいつも闘いが終わると最後に謝るのよ」
「こいつらも、闘いに巻き込まれた一被害者なんだ。だから、せめてその闘いに幕を下ろしたオレは謝るべきだと思ってな」
「難儀な性格してるわねホント」
まぁ、それがオレだから理解してもらうしかない。
「それよりも、早く八九師の様子を見に行こう。病院に着いて入ればあのおっさんが何とかしてくれてるはずだが」
「…アタシ、あのおっさん嫌いなんだけど…」
「まぁ、気持ちは分からんでもない」
そう、オレが椿に連れていくように頼んだ病院の先生は、腕は確かにピカイチなのだが、一つだけ問題があった。
「ちゃんと治療してくれればいいんだがな…あの変態」
神威視点
「ん…んぅ…」
あれから何時間たっただろうか、意識を取り戻したオレがゆっくりと目を開けると、そこは知らないベッドの上だった。
「神威!!!」
横を見ると、椿が涙目でオレの手を握っていた。
「椿…オレ…生きてる…?」
「当たり前じゃ戯けが…ホントに今回は過去1番危ないところじゃったぞ…うぅっ…」
椿は泣きながら、オレの手をさらに強く握ってきた。
「つか、ここどこ?」
「病院じゃ、里見先輩のかかりつけの病院じゃそうじゃ」
かかりつけって、あの人持病か何かある訳?
オレが若干の混乱を残し、椿から事情を聞いていると、カラカラと音を立てて病室のドアが開いた。
「おぉー起きたかガキ」
「……誰?」
いきなり部屋に知らないおっさんが入ってきたんだけど、茶髪で髪がボサボサだが、意外と清潔そうな白衣を着て、だいたい身長はだいたい180くらいの細身で丸メガネをかけた、不潔なのか清潔なのかよく分からんおっさんだった。
つーか、病院内でタバコ吸っとるしこのおっさん。
「ハァ〜、マァジ煙草吸わんとやってらんね、里見のクソガキ、重症患者をここに呼び込みやがって」
「紹介しておこう神威よ、アヤツがお主を治療してくれた先生、鷹也要先生じゃ…一応な」
?…何で一応?
「紹介ありがとぉ!!椿ちゅわぁーん!!!」
椿が紹介してくれた後、いきなり先生が椿に抱きつこうと完全にふーじこちゃーんスタイルの飛びつき方で椿に飛びかかってきた。
「いぃ!?」
ドカッ!
いきなりの行動に、オレは若干引き気味で驚いたが、椿は手慣れた様子でおっさんの顔を足の裏で止めて、床に落ちたおっさんの頭を上から踏みつける。
何でそんなに手慣れてんの…?
「おぬし…これで5回目じゃぞ、ここに入ってくる度に飛びつきおってからに、いい加減にせぬか」
そういう椿の目のハイライトは消えており、完全にゴミを見るような目でおっさんを見下ろしていた。
5回も同じこと繰り返してんのかよ…そりゃ手慣れるわ
「あぁん!椿ちゃん手厳しいぃ!でもそれがいい!!」
気持ち悪っ…
「ま、それはともかく」
おっさんが椿の足から抜け出して立ち上がると、オレの服を捲る。
「お前さん、よくこの傷で生きてたもんだ。さすが刀と契りをかわした持ち主ってだけの事はあるな」
「!?おっさん、刀との契りの事を」
「知ってるぜ、そもそも、世界中の病院を探しても、お前さん達の事情を知ってる医者なんてオレくらいだろうな」
おっさんは、オレの傷を包帯の上から指して説明してくれた。
「お前さん、ここに来た時は切られた胴体の血管ズタズタだったからな、あと50㎖血液が流れてたら即死だったな」
それを聞いて、オレの顔色は青ざめていた。
そんなにヤバかったのかオレって。
「ま、だがそこはさすがオレ、お前のズタズタになった血管を無理やり繋げ合わせて病院にある血液全部ぶち込んで再生させたんだ。感謝しろよ?クソガキ」
何故だろうか…素直に感謝したくないんだが、つーか何か腹立つ!このクソオヤジ!!
「というわけで椿ちゃん!!このガキ治したご褒美にオレにアツゥイキッスを!!ん〜〜」
ボゴッ!!
「ヘヴァッ!!?」
キス顔で迫るおっさんの顔面に、椿の拳がクリーンヒットした。
うわっ痛そう。
「するわけないじゃろうが」
「ひどい…」
おっさんは顔を抑えながら、その後の状況もオレ達に説明してくれる。
「ついでに、里見のクソガキもさっきここに来たぞ、一応治療はしたが、お前さんほど酷くはなかったからな、傷に唾つけて治してから春華ちゃんテイクアウトして家に帰した」
「ツッコミどころ多すぎるんだけどこのおっさん!!?」
唾つけるとか民間療法で治療すんなよ!しかも春華さんテイクアウトってオイ
「嘘に決まってんだろバカ、ちゃんと治療して帰したっての、春華ちゃんのテイクアウトはしっかりと失敗に終わった。明日改めてお前さんの状態見に来るらしいぞ」
「やろうとはしたんだ…」
「典型的なダメな大人じゃの」
「まぁとにかく、お前さんは大事をとってあと2日は入院な」
そう言い終えると、おっさんは部屋を出ていった。
「あと2日って…」
マジで?
「安心せい、ちゃんと言えないところは省いてお義父様やお義母様達には伝えてある。明日には様子を見に来るとも言うとったぞ」
そうか、お袋たちには悪いけど何とか理解してもらおう。
「椿はどうするんだ?明日も学校だろ?」
「戯けが、お主が居らんのに学校に行っても仕方ないじゃろうが、妾もお主が退院するまでここに居座るぞ」
いいのかそれって?まぁ、あのおっさんだから椿が頼めばOK出そうだな。
とりあえず詳しい事情は明日聞こうか、結局あの後、どうなったのかを。