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野心

作者: 海庵

「兄上! いかがでしたか?」


 軍議より戻ってきた兄に駆け寄る。その表情はいつも通りで結果は読めない。


「摂津へ行く事になった」

「つまり、我らに死ねと?」

「播磨守の軍もいる。死ぬと決まったわけではない」


 これっぽっちも言った本人が信じていない戯言にカッっとなる。


「あの小太郎風情が! 分不相応の野心を抱くなど! 身の程を知れ!」

「はははは、そなたはあやつを嫌っているが我らと同じよ。乱を機に自らの力を試し、大身になろうというな」


 兄はあの小太郎に親近感を抱いているようだが俺は違う。俺は身の程を知っている、左兵衛督の弟殿や執事殿に共感を抱く。

 偉大な兄、主君を支えるのだという。


「しかしこの僅かの時で鎮西の兵を纏め上げるとは左兵衛督殿は恐ろしい。わしでも同じ情勢で勝て、というならばやる自信がある。だが皆、利のある方につく。この人ならばと衆目に見せつける人格と勝ち方をせねばこうも武士はついてこぬ。播磨守殿を見よ、豊島河原で勝ち、赤松を完全に絞め上げながらも味方は増えぬではないか」

「ふん、小太郎の戦が下手で風采も上がらぬだけでしょう」


兄が小太郎を褒めるのに反発をし、つい貶めてしまう。


「はははは、播磨守は戦上手よ。坂東武者としては左兵衛督殿よりもらしい。ただわし程上手いわけではないだけだ。わしならばもっと早く白旗城を孤立させれたかもしれん。そうなれば赤松も持たなかっただろう」

「しかし、円心殿もよくぞあそこまで耐えるものです。元は大塔宮様に近い人、仇敵でもあるでしょうに」


  赤松が先の討幕戦で大きな手柄を挙げながら冷遇されたのは左兵衛督を敵視して失脚した大塔宮に近い人物であったからだ。


「左兵衛督殿の一門の重鎮が共に篭っている。他の城でもそうだ。敗勢の左兵衛督の一門が味方した者と共に篭っている。左兵衛督が間に合えば手柄の承認はそこにあり、間に合わず討死しても手柄の証拠は共にある。そなたは手柄の保証をしない者のために戦うか?」


 返す言葉が無かった。そのような者誰一人としていない。誰の見ていない所で死力を尽くして討死する事はあってもそれは誰かに伝わると信ずるからである。

 何故、兄が小太郎の首を刎ねてでも左兵衛督殿と和議を結ぶべきだと主張したのかようやくわかった。ただ左兵衛督殿と小太郎を比べての策ではなかったのだ。左兵衛督殿だけが持っている力を見ていたからこそ小太郎如きの首は軽いと言ったのだ。


「では小太郎はいくら勝とうが錦旗を得ようがその野心が成ることはなさそうですな」


 先にあの世に行き、小太郎を笑い物にするという楽しみが出来た。


「だが、わしの野心は挫けぬ。この大乱を勝ち抜く左兵衛督の大軍を相手に華々しく戦う事によってな!左兵衛督殿には我らのような大それた野心は無かろうが付き合ってもらう。それにあわよくば討ち取れるやも知れん。左兵衛督殿は人に同情するし左馬督殿は血気が盛んだ。最後まで機はあるぞ、そなたも早々に討死するなよ!」


 これからの大戦への期待に笑みを浮かべる兄を追い、馬を走らせた。



 彼等兄弟郎党七百は十数倍の強敵を相手に長時間見事な戦いを続け、最後まで勝利の機会をうかがった。そして、それが訪れずにむかえたその最期は未来永劫語られるだろう。

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