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67:金の瞳



 金の瞳を持つエデュアルト――ではなく、呪いの竜・ジジはネローネ様を前に傅いた。



「……ネローネ様、お久しぶりでございます」


「ようやく目覚めたのですね、この寝坊助」



 つい先ほど説明を受けたばかりなのだから、今目の前に立っている彼がエデュアルトでないことは分かっているつもりだった。それなのに確かめるように唖然とその名を呟いてしまう。



「エデュアルト……?」



 瞬間、冷たい瞳を向けられて全身が竦みあがった。

 強い否定の言葉よりもその凍えるような視線が、彼がエデュアルトでないことの何よりの証明のように思えて。



「騎士エデュアルトの意識は眠っています。先ほどまでジジの意識がこの体の中で眠っていたように」



 再度説明するようにネローネ様は言う。

 動揺で一切反応できない私の横で、アラスティア様がため息交じりに問いかけた。



「それで? どうすればエデュアルトは目を覚ますワケ?」


「それは彼にしか分かりません。どんな形であれジジの意識を跳ね除けて、目を覚ませばよいのです」



 それができなければ、エデュアルトの意識は一生飲み込まれたままだ。

 未だ唖然とジジを見上げる私を後目に、ネローネ様は優しく告げる。



「ジジ、あなたは好きにしなさい。久しぶりの自由なのですから」



 主人から許可を得て、ジジは一礼した後に素早く踵を返した。そして洞窟から早足で出て行ってしまう。

 小さくなったその背中にはっと我に返り、私はジジを追いかけた。ジジ――エデュアルトの体を放っておくわけにはいかない。彼がその体で何かしようものなら、それはエデュアルトの評判に繋がってしまう。いくら迷惑がられようと、彼が行く先にはついていくつもりだった。



「ま、待って! どこに行くの!?」


「……誰だ」



 呼びかけに足こそ止めてくれたが、向けられる視線は相変わらず冷たい。出会ってから一度だって、エデュアルトにこんな目で見られたことはなかった。こんな――氷のような目で。

 エデュアルトは作り物のように整った顔立ちをしているから、真顔だとそれだけで迫力が出るのだということを忘れていた。それにかなり長身であるため、真顔で見下ろされると本能的な恐怖すら感じるのだ。

 ――しかしここで怖気づいている暇はない。エデュアルトの呪いを解くために、できる限りのことをしようと心に固く誓ったばかりだ。

 ぐっと顎を引いて、ジジを睨みつけるように見上げる。



「私はオリエッタ。あなたの体の持ち主……エデュアルト・エッセリンクと専属契約を結んでいる聖女よ」


「聖女……」



 すかさずアラスティア様が私とジジの間に割り込むようにして現れた。



「あたしは女神アラスティア。覚えてるかしら?」


「……なぜそのようなお姿で?」


「ちょっと訳ありなのよ」



 どうやらアラスティア様のことは覚えていたようで、ジジの纏っていた空気が僅かに柔らかくなった。

 ほっとしたのもつかの間、



「そうですか。失礼します」



 彼は再び歩き出してしまう。どうやら私たちに興味がないらしい。

 私は走って、ジジの行く手を遮るように前に出た。迷惑そうな視線を向けられたが、ここで彼を一人にすることはできない。エデュアルトの姿で問題を起こされては困るのだ。



「待って! 行きたい場所があるなら、私が案内するわ!」


「なぜ?」



 短く真っすぐな問いかけに言葉に詰まる。

 私が彼についていく理由としては、主に監視が目的だ。そして最終的にはエデュアルトの意識を取り戻すため。しかしこれらの理由はジジにとって快いものではないだろう。

 馬鹿正直に伝えるべきではないと判断し、私はそれらしい別の理由をでっち上げた。



「なぜって……あなたが生きていたときとは、世界も大きく変わっていると思うの。力になれると思うわ」


「違う。なぜ私に関わろうとするのかを聞いている」



 ジジはきっと、私の心の内を見透かしているのだろう。これ以上嘘を重ねて悪印象を抱かれる前に、私はおとなしく白状することにした。

 後ろめたい気持ちのせいか、自然とこちらを見下ろす金の瞳から逃れるように視線が足元に下がる。



「あなたに何かあったら……困るから」


「私ではなく、私の体に、だろう」



 ずばり言い当てられて、私は俯いたまま頷くことしかできない。

 沈黙の後こぼされたため息に下手を踏んだかと思ったが、俯く私の視界に現れたのは見慣れた右手だった。



「だが、貴様の言う通りかもしれない。世話になる、聖女オリエッタ」



 握手を求められているのだと気づき、私は慌てて差し出された右手を握る。しかしすぐさま握手は強引に解かれて、ジジはどこに向かうつもりなのか踵を返した。

 慌ててジジの隣に並び、歩き出す。彼――エデュアルトの体――は長身で足も長いため、歩幅が大きくついていこうとすると小走りせざるを得なかった。エデュアルトと並んで歩いていたときはそんなことなかったのに、と考えて、今まで彼が私に歩幅を合わせてくれていたのだという事実に今更気づく。

 隣を歩くジジを見上げる。体は見慣れたエデュアルトのものなのに、中の意識が入れ替わっただけでこうも纏う雰囲気が変わるのかと驚いてしまう。

 ――エデュアルトの意識は今、眠っているのだろうか。それともジジの目を通してこの光景を見ているのだろうか。

 私はエデュアルトのために何ができるだろう。ジジの意識に打ち勝つために、何が必要なんだろう。

 見当もつかない。全く手探りの状態だ。しかし――エデュアルトのためなら、なんだってできるような気がした。いいや、なんだってする。

 気合を入れるように頬を二度叩く。そしていつの間にか少し遠くなってしまったジジの背中を追った。



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