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35:友人との再会



 慌ただしい休暇を終えて、翌朝シスターから告げられた新たな任務は、



「穢れの浄化、ですか?」



 近隣の国にある、とある廃墟の浄化だった。

 どうやら昔貴族の屋敷だった廃墟に穢れが溜まってしまってしまい、魔物を刺激しているらしい。



「えぇ。フィロメナから推薦を受けました。あなたは穢れを見つけることが得意だと」



 シスターの言葉に曖昧に頷く。

 フィロメナ様。初めての浄化任務でお世話になった先輩聖女だ。

 彼女が私を推薦してくれたことは素直にうれしいのだが、その評価には若干後ろめたさを感じてしまう。穢れを見つけることが得意なのは私ではない。



(あたしのおかげじゃない)



 私の中にいるアラスティア様が突っ込むように呟く。実際彼女の言う通りなので、何も言えなかった。

 それよりも、気になることがある。



「一人で、ですか?」



 シスターが静かに首を振ったのを見て安堵のため息が溢れそうになったが、寸でのところで飲み込んだ。

 いい加減独り立ちをしなくては、と思うのだが、まだまだ女神の力を使いこなせているとは言い難い。聖火の種火を届けるだけならともかく、実際に力を使わなければならない任務を一人で務め上げる自信はまだなかった。



「二人で協力して浄化任務にあたってもらいます」


「もう一人の聖女はどなたですか?」



 シスターは確認するように手元の資料に目線を落とす。

 そして、



「あなたと同期のガブリエルです」



 思いもよらない名前を口にした。

 ――同期のガブリエル。万年候補生の私を気遣ってくれた、優しく優秀な少女。

 いつか再会できたら、と思っていた。それがまさかこんなに早く、同じ任務に就くことになるなんて!



「同期?」



 隣に控えていたエデュアルトが小声で呟いた。

 もしかすると独り言だったかもしれないが、私は振り返って答える。



「同じ時期に大修道院を卒業した子なの。ガブリエルはとても優秀な聖女だから、心強いわ」



 自分の声がいつもより弾んでいることに気が付いた。友人との再会だ、どうしたって興奮してしまう。

 目的地、そしてガブリエルと合流する街の名を聞き、大修道院前に用意されている馬車へ向かう。ガブリエルは別件で既に目的地周辺にいるようで、すぐにでも出発しなければ彼女を待たせてしまうことになりそうだ。

 足取りが軽い。友人との再会を前に、浮かれていた。



 ***



 目的地である廃墟から一番近い街の宿屋で、私とガブリエルは再会した。



「ガブリエル!」


「オリエッタ!」



 勢いよく抱き着いて感動を噛みしめる。

 ガブリエルを真正面から見つめた。緩いウェーブを描く焦げ茶の髪に、蜂蜜色の大きな瞳。見慣れていたはずの顔が、随分と大人っぽくなったように感じられた。



「まさか、オリエッタとこんなに早く同じ任務に就くことになるなんて!」


「私も驚いてるわ! 今回はよろしくね」



 驚きと喜びを共有し終えた後で、私はエデュアルトを紹介しようと抱擁を解いた。そして後ろに控えていた彼を振り返る。



「こちら、専属騎士のエデュアルト」



 エデュアルトが私の横に並んで頭を下げた。

 ガブリエルはぎこちなく会釈して、先ほどの私と同じように背後を振り返る。そこに控えていたのは黒髪の騎士だ。

 彼とはほんの一瞬ではあるものの、顔を合わせたことがある。あれはまだ私が万年候補生だったときのこと、廊下で話をする私たちの許にガブリエルを呼びに来たのだ。

 私にとっては初めて見る“友人の専属騎士”だったから印象に残っているけれど、彼は私のことなんて覚えていないだろう。



「ええっと、アロイスさんよ」



 黒髪の騎士――アロイスさんは深々と頭を下げた。

 こうして見ると随分と若い。私と同じぐらいか、下手をすれば年下に見えた。童顔な上にエデュアルトよりも小柄だから若く見える、というのもあるかもしれないけれど。

 アロイスさんは会釈したきり、口を開こうとはしなかった。気まずい沈黙が続く。

 それを破ったのはエデュアルトだった。



「問題の廃墟には明日向かいましょう。この街からそう離れていないようです」



 エデュアルトがここら近辺の地図を机の上に広げて、廃墟があるのであろう場所を指さす。私とガブリエルは地図を覗き込み、無言で頷きあった。

 エデュアルトを見、アロイスさんの様子も窺おうと視線を巡らせ――彼が一人、離れた場所に立っていることに気が付いた。一瞬目があったものの、すぐに顔ごと視線を逸らされてしまう。人見知りなのだろうか。



「オリエッタ、夕食はどうする」



 アロイスさんの様子を気にかけていたところに問いかけられて、私は反射的にガブリエルを見た。



「ガブリエル、一緒に食べない? よかったらアロイスさんもいかがですか」


「え、えぇ」



 どうも煮え切らない返事をするガブリエルに私は首を傾げる。乗り気でないのなら、無理やり誘うのは申し訳ない。

 アロイスさんはどうだろうと再び視線を投げかけたが、依然俯いたままだった。

 ――なんだろう、気まずい。

 ガブリエルは私との再会を喜んでくれたし、アロイスさんとはほぼ初対面だ。嫌がられている訳ではないと信じたいのだが、だったらなぜ、こうも空気が重たいのか。

 このまま一緒に食事をとるべきか、引き下がるべきか判断しかねて、私は助けを乞うようにエデュアルトを見てしまった。すると彼も何度かガブリエルとアロイスさんを見比べて怪訝な顔をしていたのだが、私の視線を受けてか、ゆっくりと口を開く。



「……我々が何か、買ってきましょうか。宿での方が気兼ねなく話せることもあるでしょうし、お二人は同期と聞いていますから、二人きりで話したいこともあるでしょう」



 エデュアルトの言葉に、ガブリエルは顔を明るくさせた。どうやらエデュアルトの提案は“正解”だったらしい。



「お、お願いします!」



 エデュアルトはアロイスさんに合図して、二人で部屋から出ていく。その間際、エデュアルトは私を振り返って小さく頷いた。アロイスさんは任せろ、もしくはガブリエルを任せた、といった合図だろう。その両方かもしれない。

 はぁ、とガブリエルが大きなため息をつきながらベッドに腰かけた。



「ガブリエル、どうしたの? そんな大きなため息ついて……」



 立ったままガブリエルを見下ろす。すると彼女は潤んだ瞳で見上げてきた。



「どうしてそんなに専属騎士と仲いいの!?」



 初めて聞くガブリエルの大声に、目を見開いた。

 ――どうしてそんなに専属騎士と仲がいいの?

 彼女の問いかけの意味をすぐに理解できず、私は固まってしまう。そんな私にガブリエルは焦れたのか、返事を待たず続けた。



「もう毎日気まずくてしかたないわ!」



 ――どうやらガブリエルは、専属騎士との関係に悩んでいるらしい。

 それに気づけたのは、彼女が二度目の大きなため息を零したときだった。



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