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青と光るとあのカメラ  作者: くわばらクワバラ
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03.揃ってしまった友達

 木の枝の隙間から夜が見える。あんなに明るかった空にはいつの間にか月がくっきりと見えていた。しばらく歩くと家のようなものが見えてくる。火が焚かれ木が積み上げられて簡易的なものだ。そこに数人の人影が見えた。


「おかえり、木鈴。その人は?」

「ここに来たばかりの遭難者」


 そう言って目線を陽香の方へ向ける。


「俺は一露陽香。犬の化け物に襲われていたところを助けてもらった」


 黒いタンクトップに泥がついたズボンをはいた目の前の男へと視線を移す。


「俺は江二(えふた)(じん)。よろしく。見たところ高校生?」


 江二は笑顔を見せながら話す。


「そう、二年生。江二君も?」

「おお! じゃあ同じだ。まあ、俺は高校いかないで働いてたけど」

「そうなんだ。凄いな。じゃあ、先輩みたいなものか」

「いやいや。でも確かにここについては俺の方が知っているかもしれないな」


 陽香は首を動かし周りを見る。タオルを顔にかぶせ地べたで仰向けで寝ている無精髭を伸ばした男、整った顔つきで陽香を睨むように見ている男。皆見た目は十代後半から二十代前半。共通点はそれくらい。


「全員ここで会った人間なんだ。ここに来る前のことは分からない。ただみんなここから出ることを目的として一致している。だから一緒にいるんだ」

「なるほど。俺はここにいて大丈夫?」

「ルールは多数決。四人のうち半分が首を縦に振ればいいことになる。当然俺はいい。木鈴もここに連れてきたってことはいいってことだろ?」


 木鈴は顔を向けないが静かに頷く。


「決まりだ。ここを出るのに人が多い方が確率は上がるだろう。よし、とりあえず飯でも食うか」


 そう言い三人は火の近くで休む二人の元へ歩く。足音に気づいたのか顔にタオルをかぶせている男が起き上がり陽香の方を見る。


「おお、新人か。俺は小崎(おざき)奈良(なら)。歳はたぶん俺の方が上だがタメでいい」

「わかりました。ええっと、俺は一露陽香。よろしく」

「んで、こっちの奴が伊美(いみ)()()


 顔の整った陽香の同じくらいの年齢の少年は黙ったまま陽香を見る。


「残念なことに喉が侵されてる。なんとか表面だけ削って持ちこたえてるが中心部に少しずつ広がってる。こいつが化け物に成り下がる前になんとかここを出たいんだけどな」

「削ってというのは刃物で?」

「そう、そうでもしてなんとか生きたいわけよ。俺たちも目の前で人が化け物になるところなんて見たくないしな」


 話しながら地面に置かれた葉をめくり木の枝に突き刺さった魚を手に取り火の前に突き刺す。


「残念だが食料と言ったらこいつかそこか辺の草しかない。まあ、こんな生活ももう終わるだろうから少しの辛抱だ」

「食えるだけ全然いいと思う」

「そう思ってもらえたら嬉しい。ああ、それでまみ、奴らの形跡は?」


 無言で座っていたまみが口を開く。


「確実にもうここに来てる。この機会を逃す訳にはいかない」

「奴ら、というのは?」


 江二が答える。


「ここに意図的に来る人間。なにがしたいのかは分からない。ただ、奴らを利用すれば俺たちは元の世界に戻ることができるはずだ」

「なるほど。状況はまだ把握しきれてないから分からないけど目的、大筋のことは何となくは分かった。俺にできることがあれば何でも言ってくれ」

「今はできることは休むこと。頭を整理しなきゃ物事はうまく進まない。俺と伊美はもう寝る準備をしていたがお前らはどうする?」

「俺たちはもう少しここでにいるよ」

「わかった。伊美はエー地点を頼む。俺はシー地点で休む」

「………」


 江二が返事の後、小崎の言葉に頷きはしないが立ち上がり歩き出す伊美。小崎も立ち上がり後を去る。


「にしても偶然木鈴が見つけたからいいけど見つけなかったらどうなってたんだろうな」


 江二は表面が焦げた魚を陽香に手渡しながら話す。


「ありがとう。ほんと、助かったよ。こんなところで一人で生き残れる気がしないから。木鈴さん本当にありがとう」

「……。礼を言うのはまだ早い。ここから出られたらにして」

「ふっ。木鈴はマジで素直じゃないなー」

「江二は黙って」

「はいはい」


 陽香は笑いながら魚にかぶりつく。


「今日は俺がビー地点に行く。一露も俺についてきてくれ。木鈴はここを頼む。あ、それとも一露と一緒がいいか?」

「そんなわけないでしょ」


 男二人が笑った後少し無音になる。川の水が石にぶつかる音がどこからか耳に入る。


「これは近くの川で捕まえてきたの?」


 陽香は歯形がついた焼き魚を見ながら口を動かす。


「そう、あそこの川はよく魚が取れるんだ」

「やっぱり川沿いが生活しやすいもの?」

「そうだな、ただ近すぎると同じ考えの奴と出くわす可能性があるからこういう中途半端なところがいいんだ」

「なるほど。凄いな、そんなところまで考えてるのか」

「だから生きてるのかもしれない」


 しばらく話は続いた。陽香が食べ終わったのを確認すると江二が言う。


「んじゃ、そろそろいくか」

「わかった」


 二人は立ち上がり座ったままの木鈴の方を見る。


「おやすみ」

「今日は本当に助かった、それじゃあ、木鈴さん」

「……」


 木鈴は視線を送ることなく無言で消えかけた炎を見ていた。

 それからすぐに陽香と江二は一分も歩かずとも目的の場所についた。懐中電灯を照らしながら前へと進む。照らされて大きな樹の下に枝が積み重ねてあることが分かる。


「近いな」

「離れすぎず近すぎず、それが一番だからな」

「そうなのか」


 夏の夜にしては肌寒い。木が生い茂っているからなのかこの場所の性質か。陽香は捲っていた制服の袖を下ろし地面に座る。


「すぐ寝れそうか?」

「たぶん。さっきも少し飛びかけてた」

「ふっ。それじゃあ大丈夫だ。タオルならあるから自由に使ってくれ」


 そう言われ二枚ほどタオルを渡される。


「ありがとう。使わせてもらうよ」


 陽香はタオルで汗や泥、血で汚れた顔を拭いた。


「こんな森の中じゃ元来た道が分からなくなるな」


 陽香の言葉に江二は笑う。


「元来た道なんて考えない方がいい。ここから出るには出口を見つけなくちゃいけない。元の道から戻るなんてことは不可能だ」

「試したの?」

「ああ。あいつらの過去は知らない。けどみんなここから抜け出そうとはした。結果誰一人ここを抜け出せてはいない。だから奴らを利用する」

「そういうことか。ここで一生暮らすのは?」


 江二はまた笑った。


「御免だ。俺は帰ってやることがある」


 陽香は静かに頷く。


「そうだよね、変なこと聞いた」

「いいや、言いたいことがあったら正直に言うのが一番だ。まあ、今日はもうゆっくり休もう」

「ああ、おやすみ」

 

 二人はそれぞれ横になり目を閉じた。


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