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青と光るとあのカメラ  作者: くわばらクワバラ
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02.夏の森で出会った少女

 目を開ける陽香。バスの窓枠を掴み体をコンクリートの地面へと落とす。


「あぁ……」


 所々制服が破けて血が滲んでいる。気にするそぶりは見せない。

 周りを見渡すが空の色はまだ明るい。ただ、周りの雰囲気は暗く大きな動物が生活していてもおかしくないくらいには木々が生い茂っている。


「……」


 スマートフォンを取り出して電源を入れる、が暗いまま。ポケットにしまい二、三回左右、後方を確認する。化け物はいない。それに安堵したのか息を深く吐きだす。足元を見ると血がついたナイフが落ちていた。拾い上げて口に運びきれいにする。するとどうだろう。陽香は一点を見つめる。

 カサカサと音をたてる右側の茂み。そこから飛び出す一匹の犬。陽香は走る。だがすぐに逃げることはできないと判断するとナイフを構える。犬は陽香の腹部へと突進し、陽香は地面へと倒れこむ。大きな口から唾液を垂らしながら顔に噛みつこうとするその犬にナイフで必死に抵抗する陽香。

“ドゥン”と耳にこびり付くような銃声が鳴った。

 犬は横に倒れ動かなくなる。同時に声が聞こえた。


「大丈夫? 見た感じここは初めてのようだけど」


 視線の先、そこにいたのは肩にかからないくらいの茶色とも金髪ともとれる髪をなびかせる少女。ジャージに身を包んだ少女の顔は銃口の煙に揺られていた。


「まったく大丈夫じゃない。けど助かったよ」


 陽香は肘を地面につき起き上がると少女の方へ体を向ける。


「良かった。それで」


 途切れた言葉の続きの代わりに手に持った拳銃を陽香へと向ける。


「手のナイフを捨てて」


 表情が固まった陽香は手を広げナイフを地面へと落とす。


「下一枚残して脱いで」


 陽香は固まった表情を動かす。


「ここで?」

「ここで」


 不満そうな顔をしつつも土や体液などで汚れた制服のボタンを外しベルトも外す。

 少女はなんとも言えない表情で布に隠れた股近くの膨らみに視線をやるがすぐに外し全身を嘗め回すように確認する。


「なにを見てんの?」

「傷。腕に噛まれた跡があるけど腐敗はしてない」

「腐敗?」

「そう。もっと言うと感染。ここの空気を吸ってる時点で感染は進んでる」

「そうしたらどうなる?」

「意志がない化け物になる。さっきの狂犬のように生き物がいれば襲い掛かるっていう化け物に成り下がる」

「それは嫌だな」


 傷跡をまじまじと見ながら少女は黙り込む。


「そんなに珍しい傷跡? それに君はなんでここにいるの? 名前は?」

「……黙って。今自分がどういう立場にいるか分からないの?」


 銃口が顔に近づく。


「どういう立場って……。俺はただ君に助けてもらっただけだよ。別に君に何かをするわけでもないし偶然ここに来たんだ」

「どうやってここに来たの?」

「……どうやってか分かるほど単純じゃないんだろう? 俺も気がついたら壊れたバスの中にいてここで急に襲われて今ここで君と話してる」

「……」


 銃口が向けられたまま数秒間の時間が過ぎる。


「着ていい」


 気が抜けたため息を吐き服を身に着けベルトを締める。


「ここにいる限り感染は進む。だから抑える必要がある」

「どうやって?」

「切り落とす」

「切り落とすって……切り落とす?」

「ここの空気を吸ってる限り体は変化し続ける。異常なほどの再生力を持った体は急所が傷つかない限り一週間もしないうちに元通になる」

「……こんなおかしなことが起きてるんだから驚かないけど、自分の体を躊躇いもなく切り落とすなんて普段からそんなことやってるの?」


 少女の目が細くなる。


「そんなことで躊躇してたら生きていけない」


 そう言って少女は背を向け歩き出した。


「ちょっと待って、どこ行くの?」

「住処に帰る」

「……俺も行っていい?」


 少し時間を空けて少女は答える。


「変な動きをしたら撃つ」

「わかった。俺は一露陽香。君は?」

「木鈴まみ」


 それだけ言って足を進め始めた。



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