砂漠の遺跡
ハイデマリーは、ディートフリートの告白に真っ赤になっていた。
ロレンツォとは婚約時代にも、好きと言われたことはなかった。
結婚相手として大事にしないといけない、良好な関係を作っていかないといけない。
ロレンツォは見目麗しく優しくって、好感を持っていた。
それが恋愛感情かは分からない程度の好きだったが。
それとは違い、人生初の告白を受けたのだ。
意識しない方が無理である。
「殿下、無理強いはなりません。
王女殿下は、とても傷ついておられるのです」
ルキーノとニコラが仲介に入った。
「分かっている。
先ずは国に戻って準備だ。
急ごう」
少しでも食べれるか、とディートフリートがハイデマリーに固パンを差し出す。
「マリーと呼んでいいか?
俺のことはディーと」
ハイデマリーは頷いて、パンを受け取った。
今のハイデマリーに否定する権利はない、それをハイデマリーもディートフリートも分かっている。
そっと固パンを噛むと、生きているんだなと思う。
オアシスで休みを取った馬は、砂漠の中を走った。
追手の姿はなかったが、周りに注意しながらディートフリート達は進む。
それは剣の示す方向で、フェルホルムからは少しずれていたが、オアシスを見つけたこともあって余裕が出来ていた。
時折起こる小さな砂嵐と戦いながら馬は進む。
馬が走る時にできる砂煙も、この砂嵐で消されて追手に気づかれることはないだろう、と思っている時だった。
視界を遮る程の砂が舞い上がった時、ハイデマリーは指輪に熱を感じた。
熱い。
馬もろごと砂に飲み込まれた。
「殿下!」
「マリー」
蟻地獄の様に下に引きずり込まれていく。
息苦しいと感じたのは一瞬だった。
馬も人も地面に叩きつけられた。
ヒヒーン、と嘶いて馬は立ち上がり、興奮のまま跳ね上がった。
男達はうめき声をあげて気が付くと、ハイデマリーとカルロッタに駆け寄った。
砂の下なのに大きな空間が広がっていた。
「大丈夫だ、息はある」
怪我がないかと手を取ると、ハイデマリーは気が付いた。
「どこか痛いところは?」
ディートフリートにハイデマリーが首を横に振る。
「不思議ね、痛いところがないの」
カルロッタも気が付きルキーノが付き添っている。
ニコルは偵察に行ったが、すぐに戻って来た。
「殿下、ここは庭園のようです。
すぐ先には緑が広がっていて、建物が見えます」
誰も見たことのない遺跡、だとしてもありえない空間だ。
「殿下、これは?」
「分からないが、行くしかあるまい」
ディートフリートの言葉に、ハイデマリーは指輪を撫でる。
その姿を見てディートフリートも頷いた。
熱い。
「この先に呼ばれていると思う。
オアシスのように」
行こうと、ディートフリートはハイデマリーに手を差し出す。
砂の下だろうに光が射し込んで、緑の庭園の奥に豪奢な建物がある。
とても遺跡と思えるような古い建物ではない。
ニコル、ディートフリート、ハイデマリー、カルロッタ、ルキーノと列になり、建物に入った。
「ニコル、そのまま進め」
人の気配のない廊下を歩いていく。
5人の足音以外は音がない。
いくつもの扉が並んでいるが、ある扉のところで指輪がさらに熱くなった。
ディートフリートの剣もそうらしく、二人で顔を見合わせる。
「ニコル、この扉だ」
通り過ぎようとしたニコルが足を止めて、扉に手をかけた。
ニコルが慎重に扉を開ける。
そこは、外の光が入っているらしく、開けた扉から光が漏れ出てきた。
「誰だ?」
中から聞こえる声に人がいるとわかり、さらに身構える。
「ここは誰も来れないようにしてあるはずだ。
どうやって来れた?
入って来るがいい」
聞こえる言葉に敵意はないと判断して、ディートフリートが部屋の外から応える。
「私は、フェルホルム王国の王太子ディートフリート。
驚かせて申し訳ない。
お言葉に甘えて、部屋に入らせてもらう。」
王太子殿下は公式には自分を私と呼ぶのね、とハイデマリーは緊張のあまり、そんなことを思っていた。
部屋が明るいのは、屋根と壁が半分壊れて外に繋がっているからだと、部屋に入ってわかった。
そこには、部屋に入りきらないから屋根と壁を壊したであろう巨大な竜がいた。