そしてハッピーエンド
最終話になります。
グレートヘン王国とフェルホルム王国を結ぶ道から外れると、砂漠が広がっていた。
一面に緑だったのに、人が入るにつれ砂漠へと戻っていった。
遺跡のある中央には緑あふれる地が見えるが、足を踏み入れられるのは、竜の血をひく者と許された者のみ。
それでも人々は砂漠に足を踏み入れた。
ディートフリートが竜になった姿は多くの人に見られ、それからも頻繁に竜になり、グレートヘンとフェルホルムを往復していることは知られている。
ディートフリートと同じように、竜の力を得ようと砂漠に入る者が絶えないのだ。
竜の姿になり空を飛ぶだけだが、竜の力の全てを得られると思っている者も少なくない。
ディートフリートが竜の濃い血であった為に出来たことだが、竜の鱗と血があれば誰でもなれると間違った噂を信じている者もいる。
彼らの狙いは、ミルドレッドだ。
それはミルドレッドの怒りを買い、砂漠は近隣諸国に広がって行っていた。
各国は砂漠に入ることを禁じ、竜の地として保護をし警備兵を派遣するようになった。
ディートフリートとハイデマリーの結婚式は、砂漠の宮殿で行われた。
参列者は血縁者のみというのであったが、ジュミレアの子供ヨアンとナゼルの子孫は、300年の間に数百人になっていた。
両国の高位貴族のみならず、諸国の王族にも竜の血は受け継がれていた。
直系のディートフリートやハイデマリーよりも薄い血だが、それはジュミレアの証であった。
「人とは凄いな」
竜の姿のミルドレッドに、たくさんの子孫が膝をおり、礼をする。
「我が娘の死に悲しんでいる間に、時は過ぎたのじゃな」
教会の聖者ではなく、ミルドレッドに結婚を誓う二人に、ミルドレッドは祝福を与えた。
砂漠に風が走り、砂を舞い上げる。
それは、陽の光を浴びてキラキラ光る。
小さな粒が輝きながら落ちる。
昼なのに、星屑が落ちてくるような圧倒的な輝きで、幻想的な光景が広がる。
砂は水滴に変わり、はじけ散り消える。
「綺麗」
ハイデマリーが空を見上げているのを、ディートフリートが眩しそうに見る。
「マリーが一番綺麗だ」
ありがとう、と囁いたハイデマリーが嬉しそうにディートフリートの肩に頭を預ける。
「今が幸せと言える」
あの時、こんな未来が待っているなんて思いもしなかった。
絶望の中で、助けてくれた光。
「ディートフリート様に会えてよかった」
「マリーは自慢の女王様だよ。
よく頑張った」
そんな二人をミルドレッドは見ていた。
人間は嫌いだが、好きな人間もいる。
全部を許すことはできないが、会いに行きたい人間が出来た。
それから2年。
ハイデマリーは男の子を産んだ。
その子は竜の姿で生まれ、ミルドレッドを歓喜させた。
人と竜の姿を持つ王子は、毎日いたずらして、ミルドレッドを怒らせ笑わせた。
「女王陛下、王子殿下とミルドレッド様が南の庭園の花を全て燃やしてしまいました」
今日も二人の苦情が、ハイデマリーの元に届く。
夜になったら、ディートフリートが竜になって来るから、注意してもらおう、とハイデマリーは思う。
「その二人は?」
ハイデマリーが書類を読む手を止めずに確認する。
苦情を言ってきた教育係も、昼寝してます、と笑う。
「まぁ、ふふふ」
ハイデマリーの笑い声が響く。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
書き終えることが出来たのも、読みに来て下さる皆様のおかげです。
ミルドレッドもハッピーエンドで終われました。
再度になりますが、ありがとうございました。
violet




