ディートフリートの変化
ディートフリートの喉が動き、ミルドレッドの血を嚥下した途端、ディートフリートが苦しみのたうちまわった。
武人としての訓練も受けているディートフリートは、少々のケガの痛みも耐えるように訓練されているはずなので、ニコルも事務官達も驚くばかりだ。
「触るでないぞ」
ミルドレッドはニコル達を牽制をして、ディートフリートを見ている。
マヒしたようにピクピク震えていたディートフリートが、大きく息を吐いて目を開けた。
震えは止まり、目を開けていた。
「どうじゃ?」
ニヤリと笑ってミルドレッドが、ディートフリートを立たせる。
「身体が熱いです」
ディートフリートが己の身体を確認している。
「お前が馬より早く行けるようにしてやった。
マリーもお前と会えば元気になろう」
あくまでも、マリーのためだと言うミルドレッド。
「外に出るがいい」
ミルドレッドの後に続いて、ディートフリート、ニコラ、事務官達が外に出た。
もう深夜というのに、戦後処理でたくさんの人間が働いていた。
ましてや、庭に王太子が出たのが気づかれると警備兵をはじめ、武官、事務官が集まってきた。
「殿下、そちらのご婦人は?」
見慣れないミルドレッドを見て、騎士達が緊張する。
「失礼をするでない。
水の竜のミルドレッド様だ」
「竜!?」
誰もが同じような反応をする。
「ディートフリート、我はお前に力を与えた。
血の流れるに身を任せよ」
ミルドレッドは竜に化身した。
巨大な竜の姿に周りが息を飲む、一瞬遅れて、驚きとも感動ともいえる声が沸き上がる。
竜のミルドレッドの手がディートフリートの頭に置かれると、ディートフリートがまた苦しみだしたが、先ほどとは様子が違う。
皆の前で、ディートフリートは竜に変化した。
一番驚いているのは、ディートフリート自身である。自分の身体を触って確認している。
「元々の竜の血を強めた。
その為に、我の鱗と血と力を与えた。
いくぞ、マリーが起きているやもしれん」
ミルドレッドが飛び上がると、ディートフリートも続いた。
夜空を飛ぶ2頭の竜。
それは暗闇に紛れているのと、速過ぎるスピードの為に人の目に認識されることはない。
「すぐにマリーの元に着くだろう」
馬ならば何日もかかるが、竜が飛べば僅かな時間で着く。
「我が運んでもいいのだが、人間の身体では耐えられん。
竜の血が濃いお前だから使えた術じゃ」
娘の異変を感じて駆け付けたが、竜の速さでも間に合わなかった。
血を流しすでにこと切れた娘の姿が、どうしてもハイデマリーに重なるミルドレッド。
今度こそは守って見せる。
「ミルドレッド様、ありがとうございます。
マリーが女王である限り、俺とマリーは別々の国の統治者だが、この姿ならばすぐに会いに行ける」
グレートヘンの王宮の上に着くと、ミルドレッドとディートフリートは人の姿になりながら降りて行く。
ハイデマリーが眠る部屋の外にたどり着くと、テラスの扉を開けて入る。
ミルドレッドだけでなく、ディートフリートまで現れたことに、寝ずの番をしている侍女が声をあげる。
その声に、ハイデマリーが目を覚ましたようだ。
「どうしたの?」
ハイデマリーがベッドで起き上がると、ディートフリートの姿を見つけて微笑む。
「まだ目が覚めてなかったのね。
夢みているみたい、ディートフリート様がいるもの」
「夢じゃないよ、会いにきたんだ。
毒を飲んだと聞いた。身体はどう?」
ディートフリートがハイデマリーの手を取ったことで、ハイデマリーは目を見開き現実だと確認する。
身体が疲れていたとか、手紙がなくて不安だったとか、いろいろな事がディートフリートの姿をみたことであふれ出る。
ハイデマリーは涙が流れて止まらない。
「会いたかったの」
今は素直に言いたい。




