マヌエル王国の崩壊
ディートフリートは砂漠を横切って、最短ルートでフェルホルム王国に帰国した。
すでに砂漠ではなく緑豊かな地であったが、不思議な地であった。
国境を越え砂漠だった地に入ると、そこは反対側のフェルホルム王国との国境だった。
ミルドレッドの力だろう。急ぐディートフリートの為に何かしたのだ。
砂漠でなくなった地は、人間が進出してくるに違いない。
ここは竜の管轄地と公布した方がいいだろう。
ミルドレッドは、許可した者以外の侵入を許さないだろう。
ディートフリートは、優先事項の一つとして考えながら遺跡が眠る地を後にした。
国に戻ると、フェルホルム軍を率いてマヌエル王国に進軍した。
グレートヘンに近づくマヌエルの援軍は、ミルドレッドに追い払われた。
大剣を振ると嵐が巻き起こり、雷がマヌエル軍に落雷した。
グレートヘンから退却して、マヌエル王国に戻った部隊だったが、進軍してくるフェルホルム軍に叩きのめされることになった。
グレートヘン王国を取り返され、反対に国内軍の手薄をつかれたマヌエル王国は、ディートフリート率いるフェルホルム軍の奇襲に対抗できずに制圧され、フェルホルム王国の統治下に置かれた。
ミルドレッドは、グレートヘン王宮でハイデマリーの側についていた。
あれから、2ヶ月。
ディートフリートは、マヌエル王国の戦後処理の為にフェルホルムとマヌエルを往復している。
一度、グレートヘンにも来たが僅かな時間しか滞在しなかった。
ハイデマリーも復興に忙しい。
「どうした?
疲れが取れないみたいだけど」
ミルドレッドがハイデマリーの顔色を見て心配する。
「甘い物でもとるがいい」
侍女にお茶の用意をさせて、ハイデマリーを誘う。
「ミルドレッド様、大丈夫です。
やることが多くって、眠れない時が多いだけですから」
全然大丈夫じゃないくせに、ハイデマリーはミルドレッドを安心させようとする。
カップから漂う紅茶の香りに気持ちが落ち着く。
「ディートフリートからは連絡がきているの?」
ミルドレッドの言葉に、ハイデマリーの手がピクンとする。
手紙の間隔が開いてきているのを、ミルドレッドも気がついている。
「ディートフリート様が、お忙しいのは分かるんです」
こんなに寂しく思うとは、ハイデマリー自身が驚いているぐらいだった。
がりっ!!!
ハイデマリーが口を押えてうずくまった。
その手の間から血が流れ出る。
ハイデマリーが吐き出したケーキの欠片が血で染まっている。
「マリー!!」
ミルドレッドが、ハイデマリーを抱えてベッドに向かう。
「お医者様を呼んで来ます」
カルロッタが部屋から飛び出し、後を続く侍女達をミルドレッドが止める。
「お前たちは、ここに居てもらおう」
ハイデマリーが狙われた。
毒か異物混入か、侍女の中に犯人がいるのか、別にいるのか。
ハイデマリーは苦しそうに身体を丸め、真っ赤な血を吐いた。
ミルドレッドの目には、それが血を流して倒れていた娘の姿に重なる。
ミルドレッドが駆け付けた時は手遅れだった。
だが、今は違う。
ミルドレッドが手をハイデマリーの額にかざすと、ハイデマリーの身体が熱を持った。
カルロッタが医者を連れて戻って来て見たのは、ミルドレッドの手が輝いていて、ハイデマリーにその光が流れ込んでいる様だった。
すぐにハイデマリーの呼吸は落ち着いてきたが、ハイデマリーが寝ているベッドには吐血した血がべっとりついている。
「ミルドレッド様」
カルロッタが医者と共に、ミルドレッドの側に寄る。
「我に人の身体はわからない。
処置はしたが、医師に診てもらった方がいい」
そういってミルドレッドは、ハイデマリーのベッドからさがるが、その足は侍女達の方に向かう。
「さて、これはどういうことかな?」
ミルドレッドの言葉は、かつてないほど冷たく響く。




