表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠のスターダスト  作者: violet
2/25

砂漠への道

もう運命でいいだろう、いやこれを運命と言わずに何と言おう。

ディートフリートはにやつく顔を押さえて、心の中の歓喜を隠していた。

このまま国に連れ帰って、俺が花婿になるんだ。


横を走るのは、ハイデマリーが騎乗する馬。

ウェディングドレスがたなびき、美しく見えるように計算された胸元。

ベールを取った顔は凛として美しく、黒髪に金色の瞳。

可愛い、いや綺麗というべきか。

いやー、あいつと結婚しなくってよかった。

ディートフリートの頭の中はお花畑である。



「フェルホルム王国王太子殿下」

本人に間違いありませんか、とハイデマリーが聞いてくる。

「なんだ?」

動揺を隠して、ディートフリートは平静を装う。

声も可愛い、と頭の中は花が舞っている。


「きっと追手は街道を封鎖することでしょう」

ディートフリートも結婚式に参列するのに他国を経由する街道を通って来た。

両国の国境に広がる砂漠を避けて、皆が遠回りの街道を進む。

距離は遠回りだが、馬や馬車で走る為、かかる時間は街道の方が早い。

しかも広大な砂漠を行くのは命がけである。

遠回りでも街道を行くのが王道だ。

だが、今はハイデマリーの心配は正しい。


「そうだな、街道を追いかけて来るだろう」

逃げる王女はウェディングドレスで目立つこと、このうえない。

街道を行ってないとわかるのは直ぐのことだろうが、先ずは街道の封鎖をするだろう。


グレートヘン王国とフェルホルム王国の間に広がる広大な遺跡が眠ると言われている砂漠。

300年以上前、そこにはフェルヘンという城塞国家があった。

水と緑に包まれた国家であったと史歴にあるが、僅かな期間で砂に埋もれたとある。

その理由は分かってはいない。

だが、生き延びた人々が砂漠の西にグレートヘン王国を、東にフェルホルム王国を創ったと記載されている。

元は一つの国民であったが、砂漠に阻まれ、長い間交流のないままだった。


「砂漠を行こう」


多くの少年がするように、ディートフリートも少年時代に砂漠探検をしたことがあった。

遺跡は見つからなかったが、砂漠の経験はある。

砂漠を横断してフェルホルムに向かうなら、5-6日はかかるだろう。

街道は隣国を経由しても、馬を走らせれば3-4日で国境を越えれる。

何よりも、砂漠は危険が多い。

大型の肉食獣はいないが毒を持つ蛇や、水が無いため十分な用意が必要である。

それでも、今は砂漠を行くのが追手をかわすには有利と考えられる。


結婚式で王を殺したということは、マヌエルとの国境ではマヌエル軍が侵攻してきていると、考えて間違いないだろう。

ディートフリートは、砂漠越えしかないと馬を砂漠との国境の街に向ける。

だが追手が迫りくる今、砂漠の準備をしている時間などない。

馬上から露店の水と干し肉、飼い葉を買い、休む間もなく砂漠に向かう。

軍馬は身体も大きく大量の餌を必要とするが、砂漠も越える体力がある。


東に向かえばフェルホルム王国がある。

昼は太陽の動き、夜は星を目安にして砂漠に踏み出した。

ディートフリートの腰には儀式用の剣。

王家に代々伝わる古い礼剣、(いにしえ)の国の遺物だと言われている。

結婚式、戴冠式の時にはこの剣を帯剣する。

彫金のような

装飾はないが、大きなオパールが一つはまっている。

まるで砂嵐か星屑のように遊色効果で煌めいている。

今回は、かつては同一であったグレートヘン王国の結婚式ということで、第一礼装としてこの剣を持参した。

これで、ハイデマリーを斬ろうとしたロレンツォ・マヌエルの剣を振り払ったが、斬りすてる程の鋭さはない。

砂漠でどれほどの役にたつか。

ディートフリートの護衛として参列していたルキーノとニコラも儀礼剣である。

だが、それでは護衛にならないので、短剣は密かに身に着けていた。




砂漠に入って直ぐに気がついた。

以前、砂漠に入った時とは違う。

空気が湿っている。

剣が熱い、馬の向きを変えるとそれが正しいというかのごとく、剣が熱くなる。

ディートフリートの馬が向う方向に遅れることなく、ハイデマリーの馬も向きを変える。

ハイデマリーの手綱を持つ手には、真っ白のウェディングドレスに相応しくない古い指輪。

何故にその指輪が見えたのか。

僅か後ろをハイデマリーの馬が駆けている、見えるはずがないのだ。


ディートフリートは、今は考えても仕方ない、と前を急ぐ。

その目には、緑に囲まれたオアシスが映った。


「バカな」

この砂漠にオアシスの存在は聞いたことがない。

ディートフリートは、馬のスピードを緩める。


たくさんの冒険者と、遺跡を狙う盗賊が砂漠に入った。

戻って来た者も、戻らなかった者もオアシスを見た者はいない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ