グレートヘン王国の建て直し
王の首を取って終わりではない。
国を再構築しなければならない。
重臣の多くがロレンツォに抵抗し、亡くなっていた。
前王をはじめ、亡くなった全員を合同葬することで方針が決まり、そのための機関の構築を最優先させた。
お茶のカップを置いて、ハイデマリーが息を吐く。
その様子をミルドレッドは面白そうに見ている。
会議の束の間の休憩だ。
この後も、決めねばならないことばかりだ。
幸いなのは、ハイデマリーが次期女王として、かなりの知識を身に付けていたことだ。
「マリー、疲れたろう?」
そう言うディートフリートも疲労が大きい。
「ディートフリート様の方がです。睡眠もないに等しいのですから」
あれから、貴族、文官、兵士、それぞれが国を復興すべく動き出した。
ロレンツォが覇権したのは僅かな日数で、地方などは問題ないが王宮と王都の被害が大きく、中枢となっていた人間が亡くなっていたのは、ロレンツォの策の一つでもあったのだろう。
すぐにマヌエルから統治に長けた人間が送られてくる予定だったのであろう。
「俺は、一度国に戻ろうと思っている」
王太子であるディートフリートは、同盟国次期王女の結婚式に参列だけのはずだったのが、予定以上の日数を過ごしている。
ましてや、他国の騒動であるのに、命がけでハイデマリーを守ってくれたのだ。
ハイデマリーは寂しく思う気持ちに気が付いて、目を伏せる。
「分かっております」
もう少しでいいから側にいて欲しい、なんて言えない。
「期待していいかな?
今のマリーの表情、俺うぬぼれてしまうよ?」
嬉しそうにディートフリートがハイデマリーの手を取り口づけをすると、あからさまにハイデマリーが動揺する。
「俺と結婚してくれる?」
この数日で何度目かになるプロポーズをディートフリートが口にする。
それに答えるハイデマリーの答えは同じだ。
「何でもするから女王になる手助けをしてくれと懇願しました。
この身体でよければ差し出します。
ただ、私は女王となり、ディートフリート様が王になられる身。
結婚は難しいと思われます」
今回のディートフリートは引き下がらなかった。
「俺、通うから。
マリーに王配つけるなんて、許さないから。
婚約成立ね。
何でもするんだろう?」
「確かに、我にもそう言ったな」
笑いながら援護してきたのはミルドレッドだ。
「我が、婚約の承認となろう。
結婚式には呼べよ」
ミルドレッドに言われれば、ハイデマリーにあらがう術はない。
ロレンツォより、ディートフリートの方がいいかな、ぐらいには思っている。
「マリー、これは忠告だ」
ミルドレッドに礼を言ってたディートフリートが真面目な顔になって、ハイデマリーに向き直る。
「俺は剣技には自信があった。
だが、あいつと対戦して思い知ったよ」
あいつとは、ロレンツォの事だろう。
「俺は負けていた。
速さもセンスもあいつの方が上だった。
俺が勝てたのは、ミルドレッド様の加護を受けた剣だったからだ」
ハイデマリーはディートフリートが負けて死ななくってよかった、と思うがディートフリートの言いたいことはそうではないらしい。
「あいつは才能があったのかもしれない。だが、努力したのだろう。
きっと、グレートヘン女王の王配にふさわしくあろうと。
ハイデマリー、人には能力にあった地位や職が必要なんだ。
女王だからと何もかもする必要はない、任せるということも必要なんだ」
私は、王配になってくれるロレンツォに負担がかからないようにとしか考えなかった。
ロレンツォの剣技がそんなに凄いと知らなかった。
知ろうとしなかった。
「私が追い詰めた、のかもしれない」
信用されないのは悲しいと、ハイデマリーにもわかる。
ディートフリートは、ハイデマリーに応えることなく立ち上がる。
「俺は、国に戻り軍を指揮して、マヌエル王国に進軍する」
思っても見なかったことに、ハイデマリーはディートフリートを見つめ、ミルドレッドは腕を組んで見ている。
「今回のマヌエル王国の暴挙を許すことはできない。
そして、マヌエル軍の一部はすでにここで討ち取っている。
こちらに増援が向かっていると言ってた。ならばマヌエル王国は手薄状態ということだろう。
マヌエル軍の増援が来るということを踏まえて、守備を固めるんだ。
ルキーノを警備に置いていく。
ミルドレッド様、よろしくお願いします」
ミルドレッドが頷くと、ディートフリートは礼をして部屋を出て行こうとするのをミルドレッドが止める。
「砂漠を通るがいい。もう砂漠ではない、馬も走れるだろう」
ハイデマリーは、会議が始まろうとしているのに、しばらく立ち上がれなかった。
他の人間を信用する、任せる。
ディートフリートが残した言葉が響いていた。




