裏切者の結末
ブワッ!!!
ラザレアの身体が宙に浮いた。
「ロレンツォ様助けて!」
ラザレアが叫び、身体が浮くということが信じられないと一瞬目を見張ったロレンツォだが、直ぐに無視をする。
ディートフリートと対戦していて、気を緩められないとばかりに打ち合う音が大きくなる。
ミルドレッドには、ラザレアが娘の夫を誘惑した女に重なるのだろう。
ミルドレッドが、指を動かすと、ラザレアの腕があらぬ方向に曲がる。
「ぎゃあああ!!」
遊んでいるミルドレッドにハイデマリーは何も言わない。
残酷だと思うが、自分は何でもするとミルドレッドに言ったのだ。
自分を裏切った侍女に恨みもある。
どれほどの情報をロレンツォに流したのだろう。
王女付きの信頼厚い侍女は、王女の使い、と言えばどんな場所にも行ける。
かなりの機密に触れる事が出来る。
「ロレンツォ様!」
口から泡を吹いて、ロレンツォを呼ぶラザレア。
ミルドレッドが他の指を動かすと、ぐにゃりとラザレアの身体が変な向きに動く。
ポタポタ。
浮かんだ身体の下に血だまりができる。
鼻や耳から血が流れ出ていた。
顔は苦痛に歪み、自慢の美貌は無残な状態になっている。
ドサッと音を立ててラザレアの身体が床に落ちたが、動くことはない。
「主人を裏切り、ましてや主人の婚約者を奪う者など、誰からも信用されまい。
あの男もそう思っていたようじゃな」
ミルドレッドが、ラザレアを助けようともしないロレンツォを指す。
「そうか、見たことあると思ったら、フェルホルムの王太子だな。
結婚式に参列していた」
ロレンツォがディートフリートの剣を受け止めて言う。
「確かに、ディートフリート・フェルホルムだ。
同盟国グレートヘンは無くさせやしない」
ガツン、ガツンとぶつけ合う剣が火花を散らす。
二人の剣技が凄いのは、ハイデマリーにもわかる。
だが、ディートフリートは、ハイデマリーを連れて砂漠に逃げ、ミルドレッドに出合い、とんぼ返りで戻ってきたのだ。
玉座に座り、指示をしていたロレンツォとは体力の消費が違う。
ディートフリートは、命をかけて戦ってくれている。
お願いディートフリート様を助けて。
ハイデマリーは、ディートフリートを失くしたくない。
指輪が熱かった。
ヒュンとロレンツォの剣がディートフリートの腕をかすめる。
上着を着ていないディートフリートのシャツの袖が切れて血が滲んできた。
それでも、ディートフリートは怯むことなく剣を振り上げる。
ガッキーン!!
ディートフリートの剣がロレンツォの頬を斬り裂いた。
ロレンツォも止血しようとすることもなく、剣技を振りかざす。
「見事な剣技じゃ」
ハイデマリーの横に来ていたミルドレッドが言う。
「道は違うが、二人とも覚悟を持った剣じゃ」
ミルドレッドに二人を止める気配などない。
そして、その結果をハイデマリーは受け入れなければならない。
ロレンツォが床に膝をついた。
豪華な衣服は血に染まっている。
ディートフリートが、ハイデマリーを振り返る。
復讐を自分の手でさせようとしているのかもしれない。
ハイデマリーは、首を横に振る。
「私は、無駄に苦しめるだけです」
「わかった」
ディートフリートは、高く剣を振り上げた。




