ハイデマリーは知る
よくぞこれだけのマヌエル兵を入国させていたものだ、とハイデマリーは他人事のように思った。
ロレンツォを守るように、兵士が並んだからである。
「恐い~」
ロレンツォにしがみ付いてラザレアが笑みを浮かべる。
「ドロドロでいい気味だわ。
いつもいい子ちゃんぶって、何が慈悲深い王女様よ。
ドレスもお菓子も下賜。
サイズの合わない王女のドレスなんて、捨てることも出来ないありがた迷惑。
孤児院に大量のお菓子を持って行けば喜ぶと思っているなんて、おめでたい頭!」
代々の王族がしてきたことだ。
王宮から滅多に出る事がなく、視察にでた時は大勢の護衛に守られ、本当の国民の生活など知る由もなかった。
それでも、皆の生活を願ったのだ。
ロレンツォの負担が少ないように願ったのだ。
それは、王配となるロレンツォのプライドを潰すものだったのかもしれない。
こんな声に耳を傾けてはいけない。
立派な女王になろうと、努力した。
遊びもせずに知識を詰め込んだ。
わかっているのに、なぜラザレアの言葉が痛いのだろう。
後ろから両耳に手がおかれた。
カルロッタがハイデマリーの耳を塞いだのだ。
そんなことしたって、聞こえてくる。でも、カルロッタの気持ちが伝わってくるのが嬉しい。
「姫様が国の為によき女王になるように頑張っていられたこと、私は知っています」
見てください、とカルロッタは振り返った。
後ろでは、駆け付けた貴族や騎士達がハイデマリーを守る為に戦っていた。
「ほぉ、まだ抵抗するやつらがいたか」
ロレンツォは軍を掌握していると思っているらしいが、その軍からもハイデマリー側につく者が出てきている。
「お前達、すぐにマヌエルの援軍が到着する。
すぐに抵抗を止めれば、大目に見てやる」
ロレンツォの横にいる将軍が声をあらげる。
「たとえ討ち死になろうとも、我が家はグレートヘン王家と共にある!」
後ろから次々と声が上がる。
もっとたくさんの貴族も騎士もいるのに、ハイデマリーに味方するのは一部に過ぎない。
だからこそ、命懸けだとわかる。
勝つ方に付く。
そして、ハイデマリーに勝機はないと、多くの貴族がみているのだ。
ロレンツォの後ろにはマヌエル王国がある。
グレートヘン国王が殺されたことで、ロレンツォは簒奪者となり、王となった。
ハイデマリーは、追われた王族だ。
ハイデマリーは、前に立つディートフリートとミルドレッドを見る。
ディートフリート殿下と出合えたことから全てが始まった。
そうでなければ、結婚式で殺されていた。
どんなことがあっても、ディートフリート殿下だけは信じられる。
ダン!
ディートフリートがロレンツォに斬りかかるのを、ロレンツォが避ける。
「きゃああ!」
ラザレアが悲鳴をあげて、逃げようとするのをミルドレッドが前に立つ。
「おっと、主人を裏切ったのだ。覚悟は出来ているのだろう」
ミルドレッドは、ラザレアを逃さないようにしながら、面白そうにロレンツォとディートフリートの打ち合いを見ている。
ニコルも将軍と対戦をしている。
周りは、剣を打ち合う音と怒声の喧騒に包まれていた。
ルキーノがハイデマリーとカルロッタを背にかばって守っている。
ディートフリートの剣の凄さは、王宮に着くまでに何度も見た。
そのディートフリートとロレンツォが対等に打ち合っているのを見て、ハイデマリーはロレンツォを知らなかったと知る。
ロレンツォは優秀なのだ、それをお飾りの王配にしようとした自分。
きっと違う道もあったに違いない。
この責は、私にあるのだ。
これを背負うのが女王になる、ということだ。
ハイデマリーは、二人の打ち合いから目が離せない。




