街の戦闘
集まって来たのは、マヌエル兵だけではない。
街の人間は逃げて建物の中に入る者もいたが、様子を見ている者や、一獲千金を狙うならず者や、グレートヘンの貴族と思われる者が集まって来た。
ヒュン!
ミルドレッドが馬から降り、背の大剣を引き抜きざま振り払うと、強風が街を走り、兵が吹き飛んだ。
それに続き、ディートフリート、ルキーノも馬を降り剣を抜く。
ニコルは馬を寄せて来て、ハイデマリーとカルロッタの守りに入る。
ハイデマリーも護身術は習っていたが、実戦に役立つはずもない。
集まった人々の中には、ハイデマリーの味方もいるらしく、マヌエル兵に剣を向けているのがいる。
私は・・・
ハイデマリーは、自分が何も出来ないのが歯がゆかった。
私は、守ってもらうばかりでいいの?
私が国を取り戻すのに、他人を頼ってばかりでいいの?
違う、ここは私の国だ。
ハイデマリーは一人乗りになった馬の踵を返して、ミルドレッド達に近づいた。
「私は、ハイデマリー・グレートヘン!
この国の正当な後継者です。
簒奪の兵達よ、決して許しはしない」
ディートフリートがマヌエル兵の馬を奪い、飛び乗るとハイデマリーを守るように横に付く。
すでに雌雄は決し、圧倒的に人数の多いはずのマヌエル兵は地面に倒れていた。
「ミルドレッド様、ディートフリート様、私はこのまま王宮に向かいたいと思います。
あの男が王の座にこれ以上座っているのが、我慢できないのです。
どうか、私に先頭を走らせてください。
武力のない小娘ですが、旗印となることは出来ます」
「危険すぎる!」
ディートフリートは絶対にさせないとばかりに、ハイデマリーが乗る馬の手綱を取ろうとする。
「よくぞ言った」
「ミルドレッド様」
ディートフリートは眉間に皺をよせ、ハイデマリーは笑顔でミルドレッドの名前を呼ぶ。
「何でもするから助けてくれ、というのは簡単じゃ。
それを見せてみよ。
マリーを死なせたくなければ助けてみせよ、ディートフリート」
あの男も、生涯娘一人を大事にするから、結婚させてくれ、と言ったのじゃ。
ハイデマリーがジュミレアと重なってみえるミルドレッドである。
「飛んでくる矢は、我に任せよ。
それでも危険は大きいぞ、ハイデマリー」
「ミルドレッド様。
私が危険を負わずに、王位に就くのは間違いです。
国の責任を負うのが王です」
コクンと頷いて、ハイデマリーが馬を進める。
それはすぐに駆け足となり、王都に向かう。
僅か3日しか過ぎていないのに、王都のあちらこちらで火の手が上がっていた。
マヌエル兵に抵抗している一群があるようだ。
王女の結婚式で飾られた街だったはずなのに、あちらこちらで人が倒れ、瓦礫となっている所もある。
ミルドレッドは王都の馬の勢いを止めずに、街に入る。
「ハイデマリー・グレートヘンである!」
声を上げると、無数の矢が飛んでくるがハイデマリーに当たることなく、ミルドレッドの力で弾き飛ばされる。
マヌエル兵がハイデマリー達を討ち取ろうと、土煙をあげて駆けてくる。
それを貴族と思われる男達が対戦して、ハイデマリーが王宮に向かうのを助ける。
「のぅ、グレートヘン兵が少なくないか?
軍部が掌握されているか、裏切者がいる、と考えるべきじゃ」
ミルドレッドは、国軍が王女を守れなかったのはそういうことじゃ、と言う。
ディートフリートもハイデマリーも分かっていた。
王を殺して王座を奪うにしても、簡単に行き過ぎていた。
飛び出して来たマヌエル兵を、ディートフリートが馬の上から剣で振り払う。
ミルドレッドが大剣を振ると、人が跳ね飛ばされ道が出来る。そこをハイデマリーの馬が駆け抜ける。
怖い。
ハイデマリーは恐怖と戦っていた。
どこから剣を持った兵が来るかわからない。
敵は兵だけではない。
だが、ハイデマリーの姿を見て大勢の人が援軍に駆け付けていた。
砂と血で汚れたウェディングドレスをたなびかせて、ハイデマリーは馬を駆ける。
横を見ると、ディートフリートが伴走して、敵兵がハイデマリーに近寄らないようにしてくれている。
ディートフリートが着せてくれた上着が温かい。
指輪が熱い。
私は、この国を守る為に生まれたのだから。




