砂嵐の中の星屑
もうすぐ砂漠も終わるという頃、ミルドレッドの馬が止まった。
先頭を走っていたニコルが戻ってくる。
「ミルドレッド様?」
馬を降りるミルドレッドにディートフリートが声をかけるが返事はない。
ディートフリート達も馬を降りミルドレッドの元に行くと、ミルドレッドが手を前に出した。
「お前達の剣は儀式用だろう?
前にお出し」
ミルドレッドに言われるまま、ディートフリート、ニコル、ルキーノが帯剣を外して前に出す。
トントントンとミルドレッドがそれぞれの剣をつついていった。
「どうだい?」
3人が鞘から剣を引き抜くと、砥いだばかりのように鋭利な刃が煌めいた。
「ありがとうございます。
王都に着いたら剣を手に入れようと思っていたのです。
これなら名剣にも劣らぬ威力を発揮するでしょう」
ディートフリート達3人は膝をつき、礼をする。
さらにミルドレッドが両手をあげると、視界を遮るような砂嵐に包まれた。
ディートフリートは、ハイデマリーを庇うように引寄せる。
僅かな時間だが、光をさえ遮り夜の様相になる。
舞い上がった砂が、僅かな光にあたり、キラキラ光る。
「キレイ」
ハイデマリーが砂が目に入らないように目の上を手で覆いながら、感嘆の声を上げる。
「そうだな、星屑みたいだな」
「そうね、砂漠に無数の星が落ちて来たみたい」
砂がおさまって強い光が射し込み、辺りを見渡すと緑が広がっていた。
大きな木は生えていないが、草が広がり、葉は瑞々しく輝いている。
「ミルドレッド様!?
ありがとうございます!」
ハイデマリーはディートフリートの腕から飛び出し、ミルドレッドに飛びついた。
ハイデマリーは、ミルドレッドが許したように思えたのだ。
国を砂漠にするほどの怒り。
娘を亡くした悲しみで止めた時を、動かし始めた。
「マリー」
ディートフリートがミルドレッドとハイデマリーを引きはがした。
「おやおや、心の狭い男だね」
ミルドレッドが面白そうに言いながら、馬の元に戻る。
「いえ、ミルドレッド様のご迷惑になるかと思いまして」
「そういう事にしておこうか、なぁ、ディー」
ハイデマリーにディーと呼ぶように言っていたのが聞こえていたらしい。
ディートフリートが一瞬顔を歪めたのを、ハイデマリーは見逃さなかった。
「ふふふ」
思わず笑顔になって、ああ、ずっと気が張っていたんだと思う。
その笑顔を見て、ミルドレッドは馬に乗った。
「さぁ、先を急ごうか、マリー」
ミルドレッドは、わざわざマリーと呼んで、ディートフリートをからかうつもりらしい。
ディーとマリー、二人だけの愛称にするつもりだったディートフリートには面白くないが、竜に逆らっても仕方ないと諦める。
「ミルドレッド様、街にはマヌエル王国軍が警戒して巡回しているかもしれません」
「案ずるな、マリー」
はっ、と馬の腹を蹴ると、ミルドレッドを乗せた馬は飛びはねるように駆け出した。
遅れを取らないように、3頭の馬が後ろに付く。
砂漠と違い、草原を駆ける馬のスピードは速い。
すぐに街に入ったが、ミルドレッドは隠れることなく堂々と通りを歩ませる。
「ディー、マヌエル兵はどんなのだ?」
「軍服の違いを教えるより、敵意を持って来る兵がマヌエル兵だと思った方が簡単でしょ」
大通りを4頭の馬が歩む。
すぐにマヌエル兵が駆け付けて来るだろう、と皆は思っているが、ミルドレッドは少し違うようだ。
「グレートヘン王女、ハイデマリーが王位奪還に戻って来た!」
ミルドレッドは敵兵を呼び寄せようと、大声を張り上げた。




