第3話 なんか光ったけど
とりあえずここまで投稿しました。
もう一話投稿したら,しばしプロット作りします。
【ガンツ・ムラマサ】
かつて王宮のお抱え鍛冶師として名を馳せたガンツであったが、今は人里離れた魔境の森の最深部に近い場所でひっそりと暮らしていた。
ガンツの打つ剣はドラゴンの鱗を切っても刃こぼれ一つしないと言われ、多くの将軍やS級の冒険者に愛用された。その腕は確かであったが、生来の職人気質の性格で、人とうまく付き合うということをしなかった。そのため、彼のことを妬んだり、逆恨みをしたりする人物も多くいた。
あるとき、彼は禁忌とされていた魔剣を製造してしまった。とにかく最高のものを作りたいという職人としての追求心で、意図せずに魔剣を作り出してしまったのだ。
それをきっかけに彼は罪に問われ、魔剣は処分されたうえで王都を追放されてしまったのだ。
人間関係につかれた彼は凶暴な魔物が住んでいて人が入り込むことのない魔境の森に棲みかを構え、余生を暮すことにした。
魔境の森に暮らし始めて数年が過ぎた頃、彼のからだに異変が起き始めた。体を蝕む病。
S級ランクの冒険者パーティーでも無傷でたどり着くことが不可能といわれている魔境の森最深部に、一人でたどり着き、普通に暮らしていくことができるほど彼は強かった。
この魔境に住むどんな凶暴な魔物でも彼を殺すことはできなかった。
そんな彼でも病には勝てなかった。薬草を採取し、煎じて飲むことで、何とか症状は抑えられていたが、日ごとに体力は衰えていった。
「死ぬ前にもう一度、全身全霊をかけて剣を打ちたい。」
そう決心すると、ガンツは身支度を整え、剣の素材を集めに出かけた。魔境の森では貴重な鉱石を採取することも、素材にする魔獣に遭遇することも容易であった。
3日前、素材集めの最中に光る木を見つけた。素材にできるかもしれないとその木のそばに行くと、なんとそこには毛布で包まれた小さな赤ん坊が入れられていた籠が置いてあった。
「こんな魔境の森、しかも木の中に赤ん坊?」
近くに父親か母親がいるのではないかと辺りをしばらく探してみたが、人の気配は全く感じられなかった。
ガンツはその赤ん坊が魔物の赤ん坊であることを疑いその子を殺すべきか一瞬迷った。
赤ん坊に邪悪なものは感じない、それどころか先ほどから愛らしい笑い声をあげてガンツの顔を見ている。
ガンツは自分の頭をガリガリと掻いて、フッと息を吐いた。
「残り少ない命だ。鬼が出ても蛇が出ても別にたいしたことではないか。このまま、ここに置いていてもこの子は無事ではすむまい。ひとつ俺の命が尽きるまで、この子を育ててみようか。」
そういうと、その赤ん坊を大事に抱えると、自分の家に連れて帰ることにした。
驚くことに、その赤ん坊は翌日には立って歩くことができた。
その次の日にはカタことではあるが言葉もしゃべるようになった。
「やはりこの子は人の子ではないか。」
それでもガンツはこの愛らしい子供を大切に育てた。
日ごとに凄いスピードで成長し、ひと月もたったころには人族であれば3歳程度に成長していた。
そうなると名前がないと何かと不自由である。
「そうだな…お前の名前はサクラ、ガンツ・サクラだ。」
彼はその子にサクラという名前を付けた。ガンツはドワーフの父と人間の母から生まれたドワーフと人間のハーフだ。その母親の故郷に咲いていた美しい大樹。
木から生まれたこの子にピッタリだと思った。わずか3歳ではあるがその子もうすでに美しい顔立ちをしていた。
小さいころに一度だけ母の故郷に行ったことがある。その時に見た満開のサクラの大樹。その花弁が一斉に舞い踊る姿に幼いガンツはしばし息をするのを忘れた。今でもその景色は忘れられないでいた。
「お前にもあの満開のサクラの大樹をみせたいな。」
自分も死ぬ前に、もう一度あの景色を見てみたい。しかし、母の故郷はあまりに遠い。
この小さな命を守らなければいけない。そう思うと、不思議と力が湧いてきて病の進行も遅れてきたような気がしたが、病をもつ自分が幼い子を連れて長旅をするのというのは到底かなわないだろう。
せめてサクラが大きくなったとき、母の故郷にまで行くことがあったら、その道中で身を守るための剣を残すことにしよう。
そうして、中断していたガンツ最後の剣を製作を再開することにした。
素材はすでに揃っている。
素材の中には、街の冒険ギルドに行くとSS級とされる魔獣からとれる素材も含まれていた。柄の部分にはサクラが置かれていた側で光を放っていたあの木を使うことにした。
「あと、これも使わないといけないな」
ガンツは桃色に輝く宝石をじっと見ていた。その宝石は、サクラを見つけたとき、その小さな手に握っていたものだ。おそらくサクラの親がもたせたのだろう。
「形見のようなものであれば、彼女を守ってくれるだろう」
ガンツは一心不乱に槌をふるった。全身全霊をかけて、一振り一振りに魂を込めて。
そして、ひと月の歳月をかけ、ようやく最後の一打を打ち終えた。
剣を空に掲げ、ガンツはこの剣がサクラを守ってくれるよう祈った。
その時、タイミングよく満天の星が輝く夜空に、流れ星が流れた。
流れ星に向かって祈る。
と、流れ星は急に向きを変えて、自分に向かってくるような気がした。
凄い光が目の前にあふれてきて思わず目をつぶる。
しばらくして、恐るおそる目をあけるとガンツの持つ剣が白い光を放っていた。
「なんか光っているけど・・・うむ、きっとこの剣があまりに素晴らしいので女神様が祝福してくれたのだな。」
ガンツは深く考えるのをやめにした。
「よし!これぞ我が人生で最高の一振り!名工ガンツの一世一代の最高傑作だ!」