第2話 きれいなトイレには女神様がいる
俺の名前は三村 武。都内の中小企業で技術開発主任を任されている48歳のナイスミドル。家庭より仕事を優先してきたためか、家族との関係は希薄で、ここ最近は妻との会話もなかった。それが、このところ働き方改革という名のもとに残業ができなくなってきて仕事以外の時間がもてるようになってきた。
根っからの仕事人間から仕事を取ると何が残るのか。とりあえず家族サービスでもしようと妻や息子に声を掛けても、時すでに遅く相手にされない。
魂が抜けたような表情の俺を心配したのか、マンション管理人のおじいちゃんが、マンションのすぐ下の空き地をつかって家庭菜園でもしたらどうかと提案してくれた。
まあ、このままだとあっという間に老け込んでしまいそうなのでありがたくその提案に乗せてもらうことにした。これまでは、機械やコンピュータを相手の仕事をしてきた武には、自然相手の作業が新鮮で、想像以上にはまってしまった。
その日も早朝から畑に出て害虫や雑草と戦っていたのだった。
そしてマンションから振ってきた?見知らぬ少女を助けようとして、どうやら俺は死んでしまったらしい。
らしいというのは、自分ではまったく死んでしまった自覚がないからだ。気が付くと真っ白な部屋で光る物体、女神様っぽい何かに出会い、「あなたは死んだから、別の世界に転生させる」みたいなことを言われて、今、この世界にいるのだ。
本当なら貴族様の三男坊として悠々自適な生活を謳歌するはずだったのに。
さて、今の状況をいろいろと確認してみよう。まずは、視力。うん、しっかり見えている。何となくVRゴーグルをつけている感覚ではあるが。俺を見て不気味に笑う髭面おやじ。そして髭面おやじの周りには銀色の光が見える。これはオーラに似ている。武が働いていた会社は、なんとも様々な機械の開発をしていた。その一つとして、オーラを見るための機械があるのだか、武はその開発を任された。そのためにオーラについて調べたことがある。銀色のオーラは確か職人気質の芸術家だったかな。
俺は前世?の記憶がはっきりと残っている。であるからして、これは夢なのだと思っている。夢だとしたら、自分の想像力には驚くばかりだ。夢から覚めたら俺は小説家をめざすことにしよう。うん、それがいい。
とまあ、夢だとはしてもとりあえず、今の状況を確認しなければ。とり合えず、この髭面おやじに話しかけてみるか。「おい、おやじ。お前はだれだ?」「・・・」返事はない。
聞こえていない?
何やら真剣な表情のおやじ・・・「よし、おまえの名前はグローだ。名工ガンツによる最高にして最後の剣。ガンツ・グロー」そういうとおやじは少し力を込めて俺を握った。
そうするとおやじから何か温かなぬくもりが流れ込んできたような気がした。力が湧いてくる。徹夜明けのからだに、高級な栄養ドリンクを流し込んだように体の奥からあつくなるような感覚。頭の中に様々な情報が流れ込んでくる。
ステータス・・・頭に浮かぶ情報の一覧
名 ガンツ・グロー(ミムラ・タケシ)
種族 魔剣 ランク B
レベル 1
攻撃力 B(使用者補正 +SS)
防御力 B(使用者補正 +SS)
素早さ C(使用者補正 +S)
魔力 A(使用者補正 +S)
スキル 鑑定B 自己修正B 魔素吸収S 言語理解A 念動力D ラーニング
クリエイトS 剣技S
なんとなく、嫌な予感はしていたが、種族 魔剣・・・
人ではないどころか生き物でさえない。
おそらく俺(魔剣)を造ったのはこのおやじ。
いかにも職人気質のおやじは、文字通り自分のつくった剣に魂を込めたのだ。
「大切に扱った道具には魂が宿るもんじゃ。きれいなトイレには女神様がおるんやで」っておばあちゃんが言っていた。じゃあさっきの真っ白な部屋はおトイレだったのか~
って、おい!剣に転生って、どうなっちゃうんだろう俺・・・