婆、夢破れる
神から言われた言葉を心の中で復唱し、内容を理解し、神に掴み掛るまでの時間……計3秒。
80歳を超えた老婆の動きとしては、かなり最速であったと私でも思う。
「なっ…何で私にはチート能力授けないのよ!!どう考えても一番必要でしょうが!!こちとら80超えた婆よ!?向こうですぐ死んだらどうしてくれるのよ!!!」
両手で神の首を掴み…否、締めながら前後に揺さぶる。
期待していただけ、神の言葉に全く納得できない。
いや、むしろ納得できる人はいるのであろうか?
—————私には無理である。
「ちょっ…ばばっ!!力つよっ…」
「理由を言わんかい!!異世界転生を楽しみにしてた私が可哀そうとか思わんのかこの爺!!」
「いやっ!…ちょっ…」
「何とか言いなさいよぉ!!!」
ガクガクと首を振り続けたが、5分ほどで2人して床に突っ伏すこととなったのだった。
やはり人間、年は取りたくないものだと思う。
息を整えた神は絞められた首をさすり、私と距離を取りながら口を開く。
「あんたの事は可哀そうだとは思うんじゃ…。思うんじゃが、こちらとしても誰にでも高い能力を渡すわけにはいかんのじゃよ…。」
「…なんで……。」
「…1つの世界にチート能力の者が何人もおってみろ。そこに暮らす転生者以外の者の力が立たんであろう。」
そこまで言われ、神の言わんとしたことを理解する。
「……そういうこと…。だからあなたは私に力を渡せないのね。」
「うむ。……その能力を持った者は、もうあんたの行く世界に1人存在している。彼の者は勇者となるため、わしが5年前に送ったんじゃ。」
【チート能力】を持つ者はその世界に1人のみ。
それが、【チート】と呼ばれる能力の高さ故のものなのだ。
「そりゃ……婆には渡せないわね…。」
「悪いなぁ…。だが、物分かりが早くて助かるわい。」
いつもこれを言うと騒ぐ奴が大半じゃからのう、と言う神を見て、確かに若い子が来たら私よりも期待は大きいし、自分が何の能力も持たずに転生することを良しとする子もいないだろうな…と思いながら私はがっくりと肩を落とした。
さらば……私のチート能力……。