夏野菜のさっぱり冷やしうどん 後
【うどん】というのは、小麦粉を練って作る麺であり、前世の日本ではかなりポピュラーな食べ物であった。
そして驚いた事に、この世界にも【うどん】は存在しており、質素な生活を送る庶民の食べ物として大切にされているのだ。
「でも、うどんを冷やすって言うのは新しいわ。」
ズルズルと丼に入ったうどんをすするプラムを見ながら、シランが言う。
シランが言ったように、この世界のうどんは温かいままのものであり、【冷やしうどん】なる物は存在しない。
そればかりか、【冷たい食事】と言うものが存在しないのだ。
「昔、何処かで聞いた事があったのです。」
「そうなの?あなたは物知りね。」
「私では無く、それを発明した人が凄いのです。」
「…確かに見つけた人は凄いかもしれません。ですが、それを活かそうとする事は、とても誇るべきものなのですよ。」
にっこりと微笑みながら言うシランの姿に、前世での母親の姿が重なる。
(母親という人は、なんと偉大なのか…。)
ありがとうございます、と呟く私をにこやかに見つめる視線に気付かない振りをしながら、うどんをすする。
【冷やしうどん】なのに胸がほっこりと熱くなるのは、きっと母の愛から来るものなのだろう。
プラムは、ポカポカとした暖かさを胸に感じながら、冷たいうどんをすするのだった。
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「…で、これはどうやって作るのかしら?」
「これはですね、まずはナスとウリ豚の肉を油で炒めて。その後にこのお出汁を注ぎ入れます。それからトマトを飾って、摺り下ろしたレモンを飾れば出来上がりです。」
「簡単なのね。」
「家庭料理は、簡単で美味しければそれ以上言うことは無いですからね。」
「確かにその通りね…。」
「料理は、美味しさとスピードが大切ですから。」
「今度は私が作るわね。」
「!!…それ…は…楽しみにしています…」
母様の言葉を聞いて、背中に冷汗がツーッと流れ落ちる。
母様は、料理がとても独創的だ。
それ故に、いつも私が料理番をしているのである。
(その日だけは、絶対に父様にも家にいてもらおう…。父様だけ食べないのは、ずる過ぎる。)
その日が来ないことを祈るが、来た時は必ず父様を道連れにしよう、と心に決めるのだった。