暑さを和らげるレモネード 後
「今日は本当に暑いわねぇ。」
ガチャリとキッチンのドアを開けて入ってきたシランが言う。
手で顔を仰ぐようにパタパタと振りながら、ダイニングテーブルに座る。
「本当ですね。…母様、こちらをどうぞ。」
暑さを和らげるために先程作り上げたばかりのレモネードを渡す。
「これは何かしら?」
冷たい、レモンの入ったグラスを珍しい物を見るように横から見たり上から見たりするシランの様子に、プラムはクスリと笑みを漏らす。
「これはレモネード、と言う飲み物です。凍らしたレモンと、蜂蜜を入れて冷水で割ったものになります。」
蜂蜜はこの前家で採ったローズマリーの花の蜜です、と付け加えると、シランの目がキラキラと輝く。
「とても爽やかで美味しそうな飲み物ね!飲んでもいいかしら?」
「はい!」
母様に答えた後、自分の分に口をつける。
レモンのさっぱりとした酸味中に現れる蜂蜜の優しい甘さが、夏の暑さで火照った体に染み渡る。
ほっと息をつく私に、母様が興奮したように声を上げる。
「プラム!これ、とっても美味しいわね!」
子供のような笑みを見せてグラスを揺らす母様を見て、クスリと笑顔が漏れる。
「そう言って頂けて良かったです。作ったかいがありました。」
「この世界に、こんなに美味しい飲み物があるなんてね。暑い日にもぴったりだし……。本当にあなたは凄い子だわ。」
「大袈裟です、母様。」
「大袈裟なんかじゃないわ。あなたは凄いのよ?私の宝だわ。」
そう言ってふわっと私を包み込む母様の温かさを噛み締めるように、そっと母様の体に腕を回す。
大切な宝物を抱くように私を抱きしめる母様の様子に、ポッと火を灯したように胸が温かくなる。
(家族っていいなぁ。)
柔らかな幸せを噛み締める。
「……っ。母様、そうしたらお昼にしましょう。こちらも母様に気に入って頂けると思うのです。」
「そうしましょうか。あなたがそう言うなんて、楽しみだわ。」
そう言って、そっと、抱擁していた体を離す。
夏の暑さのせいか、母様に言われた『凄い』と言う誉め言葉のせいか。
赤く染まった頬に気付かない振りをして、キッチンに向き直る。
そんなプラムを見てほほ笑むシランの柔らかな笑みを輝かせるように、窓から明るい光がきらめいていた。
————季節は夏。
爽やかなレモンの香りが、暑さを和らげるように風に溶けていった。