はじまりの話
町田 梅 享年82歳。
前世では日本に生まれ、看護師として働き、独身のまま生涯を終えた。
――― はずだったのだが。
「さて、どうしたものかのう。」
目の前に座り込む、自分と同じ白髪の男性が口を開く。
黙ったまま男性を見ていると、皴の刻まれた顔をくしゃりと歪めながらもう一度私の顔を見渡し…溜息を吐き捨てた。
その行動は、こちらとしては非常に不快である。
「人の顔を見て溜息吐くのはどうかと思うわよ、この爺。」
「爺て。仮にもわしはあんたら人間の言うところの神様じゃぞ……。」
目の前の男性 ――改め、神様は眉間の皺に手を当て、苦笑して呟いた。
「あのねぇ、あなたが神だか何だか私は知らないけど。人の顔見て顔歪めて溜息吐く様な奴に礼儀もくそもいらんでしょうが。」
「まぁさっきの行動はわしが悪いかもしれん…。だが、まさかこんなしわくちゃの婆さんがここに来るとは思わんかったんじゃ。」
悪びれもなくそんなことを言い、うんうんと頷く目の前の神……いや、爺を見ながら腕を組む。
この爺、本気で殴ったろうか?と考えていると、そんな私に気付いたのか、はっとしたような顔をして爺が頭を掻いた。
「いやいや…まぁ、その、すまん…。」
「……………。」
「いや、ほんとすみませんでした。」
ちらちらとこちらの様子を見ながら肩をすくめる神様を見て、ふぅ…と息をつく。
「…とりあえず、私が何でここにいるのかという所から説明をしてもらえますか?」