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17/23

17.テレビ出演

●5月22日 本社 水沢健司


 今日は、本社と第2ダンジョンのある県の地方紙に、ダンジョンに若返りの効果がある事実が会社の名義で公表される日であった。

 水沢たち3人の役員は、広告の効果を確認するため、午後から遠隔会議を行っていた。


 清美がため息をつきながら愚痴をこぼす。

「それにしても、広告費って高いのね。地方紙でも6分の1ページで30数万から50万か。2県分と広告デザイン費で楽に100万を超えたわね」

 水沢もその感想にうなずきながら答える。

「東京なら地方紙でも掲載料金だけで100万を超えますから、それよりはある意味ましですが、我が社の規模の会社には痛い出費ですね。今はまだご近所さんの予約があるから何とかやっていけますが、それが無くなると危険ですね。それに、金銭的に何度も使える手ではなさそうです」


「第2ダンジョンの方も昨日まではお客が全くいなかったしのう。じゃが安心するが良い広告の効果もあって、今日はぽつりぽつりと問い合わせが入っておる」

 伊吹の言葉に、清美は首を振りながら答える。

「ぽつりぽつりじゃダメなんだって。それに問い合わせじゃなくて正式な予約は何件入ったの」

「その辺はこれからじゃの。そう言うそっちの状況はどうなんじゃ」

「まあ、今のところ似たり寄ったりかしら」


「ネットの方はどうなんじゃ?」

「それなりに注目は浴びたようですが、炎上するほどではありませんね」

「やはり、マスコミからの取材待ちか」


「暗い話ばかりしていても仕方ありません。今できることをやりましょう。伊吹さん、第2ダンジョンのモンスター狩りの訓練の具合はどうですか?」

 伊吹は話が変わったことにほっとした声で答える。


「まあまあじゃな。角ウサギはさすがにすばしこいだけあって手こずっておる。今のところ最初は防御に徹して相手に隙ができるのを待つ作戦で何とかやっている。1匹あたりの経験値は2倍あるが戦闘時間も倍以上かかるのであまり効率は良くない」


「戦闘時間が倍となると、その分危険度も2倍以上になりますね。万一にも怪我人を出すわけにはいきません。防具をより強固なものに変更したほうがよいでしょう。特に太ももはしっかりガードする必要があります」

「太ももには大動脈や大静脈があるからのう。怪我の個所によっては命にかかわることもある分、しっかりとガードを固める必要があるな」


「顧客の防具も同様に変更する必要がありますね」

「うむ、そうじゃな」


 そこまで話したところで、水沢のパソコンにメール受信が通知される。

 メールの内容を確認した水沢は、笑みを浮かべる。

「マスコミの方から私たちの事業について、問い合わせがありました。あるネットテレビ局から、私たちの事業について取材を行いたいとの申し込みです」

「ムーチューバーじゃなくて?」

「それなりに名の知られた会社ですから、心配はいらないと思いますよ」


「取材は受けるのよね?」

「もちろんです」



●5月23日 テレビ局 水沢健司


 可能な限り早く行いたいという双方の意見が一致した結果、取材は翌日には行われることになった。

 清美と伊吹は、事務所で取材の対応を行い、水沢がテレビ局でのインタビューを受けることとなった。

 ネットテレビ局の控室に入った水沢のところに、壮年の男が入ってきて、気安い様子で話しかけてくる。

「やあ、私がインタビューの相手をさせてもらうネットテレビの社長の川崎だ。新聞に出した広告は見させてもらったよ。それで、あなたがダンジョンズギルドの社長さんかな?」


「はい、私がダンジョンズギルド社長の水沢と申します。テレビ局の社長自らの出迎えとは驚きました」

「なに、お互いに社長なんだ気を使うことはないさ。しかし、思ったよりも若いんだね」

「これでも、65歳ですよ」

「ほう、それが今日インタビューするする若返りの成果というわけか……。大したものだね」


「幸運にもダンジョンが自宅にできたおかげですよ。この幸運を社会全体に広めるのが、私たちの使命というわけです」

「なるほど。会社というものは、自社の利益だけでなく、社会貢献を考えることも重要だからね」



 インタビュー番組では、川崎氏自らが司会を務めていた。

「みなさんもご存じのように、今月の初めに世界各地に『門』とよばれる建築物が突如現れました。また、『門』の内部には三次元的には存在不可能なダンジョンと呼ばれる空間が広がっています」


「『門』およびダンジョンは、我々人類の科学力を超える技術によって、何者かがもたらしたとの説があります」


「今回、その超科学の性質の一端を解明し、その知識をもって社会に貢献するため会社を設立した方がいます」

「ご紹介します。ダンジョンズギルド株式会社の社長の水沢健司さんです」


 その言葉を合図として、水沢が入場してきた。

「初めまして、社長を務めております水沢と申します」

 着席した水沢に、司会の川崎が話しかける。

「それで、水沢さんたちが発見した知識とはどのようなものでしょうか?」


「はい、ダンジョンの内部にいる小動物、私たちはモンスターと呼んでしますが、これを倒すことであたかもゲームのように経験値を得ることができます。そして、経験値を一定量貯めると、レベルが上がりステータスを上げることができます」


「それも、ゲームそのものですね」

「ええ、まさしくその通りです」


「どのくらいの数のモンスターを倒す必要があるのでしょうか」

「私たちのダンジョンの場合、レベル1になるには一人当たり1匹を倒す必要があります。それ以降のレベルに上げるのに必要な数は、3倍4倍と加速度的に増えて行きます」


「ネット上などでは、レベルを上げても大して強くならないという情報が出回っていますが、その点はどうなのでしょう」

「確かに、超人的な能力を得るのは不可能です。相当レベルを上げてもオリンピック級がせいぜいです」

「ただし、逆に成人の平均的な能力まで上げるのは、比較的簡単になっています」


「ほう、しかし、平均的な能力では意味がないのではありませんか?」

「確かに若い人にとっては、その通りでしょうね。ですが、体の衰えた老人にとっては意味が異なります」


「老人とって最も苦しいのは何か、それは日常生活を自分独りで行えなくなることです」

「筋力が衰え、自分一人では満足に歩くこともできなくなる」

「体力が衰え、毎日を病院で過ごさなければならなくなる」

「体の動きが衰え、日常生活もままならなくなる」

「それが、平均的な若者と同じように、日常生活が行えるまで回復できるとしたらどうですか」


「ちょっと待ってください。それでは、老化を止める、いや逆転して若返ることができると言っているように聞こえますが」

「その通りです。私の年齢はいくつか分かりますか?」

「20代ですよね。まさか……」

「ええ、今あなたが予想した通りです。私は65歳。本来初老と言っていい歳です」


「いや、驚きました。念のために言っておきますが、これはジョークニュースではありません。正真正銘本物の若返りです」


「それでは、実際の若返り処置を受けた方の感想をお聞きして見たいと思います」


 その声と同時に画面が切り替わり、事務所とそこに集まる顧客たちの様子が映し出される。

 レポーターが、一人の初老の婦人にマイクを向け感想を聞く。

「若返りの効果はどうですか」

「最高。腰の痛みがすっかり良くなった」

「腰の痛み以外はどうですか」

「まあ、私も93歳だし、この年になると化粧もなにもないもんだけど、若くなれるならまたしてみるかねえ」

「93歳ですか。とてもそうは見えませんね」

「それもダンジョンの若返りのおかげさね」


 レポーターが、清美にマイクを向ける。

「外見が若返るには、どのくらい時間がかかるのでしょうか」

「人にもよりますが、1日から2日ほどかかるようです。なお、体力など外見以外については処置後すぐに効果が出ます」

 ちなみに、そう答える清美の外見は10代に見えた。


 ふたたび、画面がスタジオに切り替わり、川崎が水沢に質問をする。

「それで、水沢さんはどうして、若返りの情報をこの場で発表しようと考えたのですか? 自分たちで独占しておいても良いと思うのですが、情報を公開すると他社が参入してくるとは考えなかったのですか?」

「参入してきても構わないと考えています」

「これまで人間は老化という不治の病に悩まされてきました。ダンジョンはその不治の病の治療法なのです」

「しかし、治療法が発見されたとはいえ、私たちだけで病に苦しむ高齢者全員を救うことはできません。若返りの技術は全世界で取り組むべき、人類共通の病の治療法なのです」


「大変結構な話ですが、御社は技術を広めるために何ができますか?」

「若返り業務に取り組もうと考えている方には、フランチャイズという形で私たちの持つノウハウを提供することができます」

「また、自分の所有地内にダンジョンが発生したが、自分では事業を行う余裕がない場合には、我々がダンジョンを借り受けて若返り業務を代行することが可能です」


「よく分かりました。自分の所有地内にダンジョンが発生した方で興味を持たれた方は、ダンジョンズギルドまでご連絡をお願いします」



 インタビューの収録後、川崎が水沢に話しかける。

「やあ、お疲れさん。……それで、これからのことなんだが、この若返り事業は、単に成長の見込みがあるだけでなく、社会的意義のある事業だと思う。それで、もしよろしければ、私も一口加えさせてもらえないかね」

「我が社には、大企業の経営をした経験のある者がいません。川崎さんのような方が加わってくれると心強いですよ。もし、よろしければ社外取締役として協力いただけませんか?」

「決まりだな。これからよろしく頼むよ」

 そう言って二人は握手をするのであった。


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