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稲葉くん視点。



 昨夜はホール業務を恙無くこなす見慣れない委員長…綾瀬マネに目を奪われたけれど、今夜はいつも通り定位置であるフロント配置に、少しだけ安心している。


 平均以上の容姿もさることながら、彼女は静よりも動だ。

 静かに佇んでいるよりも、動いているほうが美しい。


 美しさが半減しているとは言わないが、彼女には決してライトの当たらないフロント配置で、魅力が際立つ要素が削られるのは喜ばしい。



 性格的には先頭に立つタイプではないけれど、性質的にはある種のカリスマ性がある。


 多分あのイカレた父親の血だろう。

 人を惹き付け引っ張れるだけの引力がある。


 本人のストレスさえ加味しないのなら、ホールマネを綾瀬マネがやれば恐ろしい時間の渦が出来そうだ。

 


 まぁ綾瀬マネを犠牲にしなきゃいけないような事態には誰もする気はないだろう。

 今夜のフロアマネはうららの筑紫マネだし、サポートは藤宮マネだ。

 ホールのリーダーも前半は岬さんが、後半は佐久間さんが務めるので隙はまずない。


 トラブルというか唯一残念な点を挙げるとすれば、うららの日野が無断欠席しやがったくらいだ。

 そのままドロップアウトしてくれたほうがこちらとしても嬉しいとは誰もが思っていたと思う。

 わざわざ甘っちょろい考えの大学生を更生させてやるほど、ここの人間は甘くは無い。


 その朝礼が終われば綾瀬マネはちょこちょこ動いてヘルプのチャイナ服3人組に声を掛けたり、うららのバイトスタッフに声を掛けたりと、しっかり裏方役というかフォローに徹しているようで、スマホやバインダーの中の来店者リストを見ながら口の中でぶつぶつと独り言を転がしてフロントへ向かってる。



 …俺も今日フロントだって完全に忘れてるだろ?


 さっき配置確認で筑紫マネが発表した時は一瞬驚いて「ああ、そっかそうだよね、よろしく」と納得していたけれどその後は自分の世界だ。

 朝礼内容と併せてどこで数字を伸ばせるか脳内会議が始まったのが一目瞭然だ。



 正直言って、面白くない。



 滅多にない距離感なのに、意識ひとつ向けられていない。

 …いっつもいっつもあれッだけ振り向かせて物理的にも近距離で接しているのに!


 どうしてこうブッた切るようにそれはそれと別人のようになるんだ。

 あーもうほんとヤダ、俺と仕事どっちが大事とか言いそうで自己嫌悪になる。


 俺も委員長が大切にしているものを同じように大切にしたいのに。



 でーも!面白くないもんは面白くない!



 全くこちらを見ない彼女に、ふうっと耳元へと息を吹きつけ耳を犯す。


 「綾瀬マネ、開店10分前なのでここで1度失礼しますね」



 やっとこっち見た。

 その一瞬だけ震えた反応、――絶対俺のこと忘れてたよね?ね?

 

 

 少し潤んだ瞳に、怯んだことを隠すかのように正される姿勢、女性らしさを隠しているのに仕草は洗練されていて誰よりも美しく。


 けれど誰の目にも留まらないよう薄暗いフロントに隠されている。



 ふと手の中にある来店者リストを思い出す。

 ドレスで着飾ったキャスト達と比べる必要もないくらい、俺の一番は揺らがない。



 折角のダブルフロントだ、最終日ちょっとは俺も楽しんでもいいよね?綾瀬マネ。



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