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 長かったような、短かったような、そんな気持ちで迎える最終日。



 授業が終わってから急いで出勤すれば、カラフルな蓑虫たちの抜け殻が散乱している。

 

 どこに旅立ったんだろうと抜け殻を纏めては同じ色の袋に梱包しダンボールに投げ入れていると「ちょうど良かった!それうちの商品なんだよね!」と裏口から声がした。



 「おはようございます…青果店って寝袋まで扱ってるんですね…」


 「まぁうちのお得意様が無茶ばっかり言う深夜枠の店しかないからねぇ。ここだと雪柳さんにはご贔屓にしてもらってるよ?」

 


 バキュン!と銃を持つ構えで察した。

 ああ、サバゲーごっこの支援者でしたか…確かに田中さんとはすごく気が合いそう。



 「ああついでに言うとミモザさんは王道のワガママっていうか、要求が強すぎだからね」


 「?出来ないことは頼んでないつもりですけど…?」


 何か無茶なこと言ったことあったっけ…?


 「うわぁ…ゾクゾクするわソレ」



 にやりと笑いながら自分で自分を抱きしめながらぶるりと奮えている。

 


 「これくらい出来るでしょって当たり前に信頼されてるってさ、チビりそうになるくらいクるもんがあるんだよ!わかるよなぁ?」


 青果店のお兄ちゃんが目配せした先に居るのは稲葉くん、だけじゃなかった。



 「わかりたくないけど、わかりますね」


 「僕なんかでも信頼されてるの、う嬉しいです」



 出来立てホクホクな、藤宮くんに真木くん。



 「…電子レンジでチンしたみたいですね?」



 蓑虫が脱皮すると、顔の色艶が良くなるらしい。

 まだ髪を固めていないようなので2人ともちょっと幼い感じが可愛い。



 「銭湯行ってたんですよ、ここで寝泊まりしたスタッフ全員で」


 「もう少ししたら皆、戻ってきますよ、僕らはもう綾瀬さん来てるだろうなって思ってちょちょっと急いで…」



 しっとりホクホクで照れてる…何これ可愛いやばい欲しい飼いたいわしゃわしゃ撫でたい。



 「委員長、ちょっと人様に見せられないダメな顔してる」


 「いや今はもう委員長じゃなくてマネだしっていうかこの可愛い生き物餌付けしたくてたまらないんですけど」


 「…綾瀬マネ、そもそもみんな餌付けされてますしそのセクハラ発言控えてください」



 はっ!藤宮くんは同格だから良くても真木くんはマネじゃないから私のほうが上司になってしまう!

 そうだよ!私はセクハラ受ける側じゃなくって加害者側の立場だったんだよそういえば!!!



 「ごめん!真木くん!!訴えないで!!!」


 真木くんの手を両手で握って懇願すればスパーン!と手を叩き切られる。



 「それがナチュラルにセクハラです訴えられて負けるやつです!」



 えー!これもダメなのーー!?


 「いやあの、僕嫌じゃないから、あの大丈夫ですよ…?」


 「嫌じゃないって!!」


 「嬉しそうにドヤ顔しない!…クソッ!」


 

 「ほーんと、この店っていうかこのビルの人間て変わってるよねぇ」


 青果店のお兄ちゃんがダンボールに入ったカラフルな寝袋の数を数えて「OK」と、藤宮くんにサインをした紙を渡している。



 「レンタル代はこの振込み用紙を1週間以内に使ってくれたら2割引きになってるよ」


 「いつも申し訳ないです」


 「え!何それ!ちょ!!藤宮くん!!!」


 

 ミモザにはそんな値引きとかしてくれたことないのに!!!

 


 「うちはミモザと違って王道突き進んでいけませんからね、邪道を行こうと思えばやりくりが必要なんですよ」


 家計を守るお母さんか!!うちにも欲しい!!!



 「そうそう、それにミモザさんには定価の価値以上のものをいつも要求通り納めてるつもりですけどご満足いただけてませんでしたか?」


 イエス以外の返事はありえないよねと青果店のお兄ちゃんがニヤリと笑う。


 「いっ…いっつもありがとうございますぅ…!!!」



 ううう…!悔しい!!

 このお兄ちゃんが持ってくるもので納得できないものなんて1度も無かったし…!!



 「また落ち着いたらブランド苺の品評会デーとかしたいからそのうち打ち合わせさせてくださーい」


 「ほっら…!まーたしれっとゴリ押ししてくるし…!!」


 「あれね、女の子にもウケ良かったけど一部のお客様に是非またやってくれって言われてるんだよねぇ…」


 「ああ、客層がホテルのパティシエとか百貨店のバイヤーが集まってた日ですか」


 「そうそう、あの界隈の競合他社ちょっと集めたら、気づいた時には立食で異業種交流会みたいになってたやつね」



 それは稲葉くんが転職しないかと力強く誘われていた日だった。

 高校生と聞いて何人もの大人が悔しそうに膝から崩れていたね懐かしい。


 あの日もしも真木くんがミモザのキッチンに居たらさらに盛り上がったに違いない…!

 こっち見てきょとーんとしているけれど…やだ可愛い、次は絶対ヘルプで呼んで巻き込んじゃうからね…!


 

 「そういうやり方は雪柳には出来ないことなんで妬ましいですね」


 「いやもう毎日発狂してるのかっていうくらい大騒ぎなのにお客様とスタッフを纏め上げてる藤宮くんの優秀さが異常すぎてミモザに嫁いできてほしいです」



 ほんっと2人…雪柳には欠かせない人材だけど…来ないかなぁ。

 いつかは就職して店から離れるんだからバイト辞める半年前だけでも来て欲しい…!



 「とりあえず今夜の、最終日じゃないですか綾瀬マネ」


 「あ!そうだったね!じゃあ2人にプロポーズするのはまた後日するとして、ボトルと食材の発注確認してもいいですか?もう持って来てるんですよね?」


 

 まさか寝袋だけ回収しに来たわけじゃああるまい。

 夕方なんだから他の店舗にも卸してきただろうけど、うららの分は今夜少しグレード上げたものも追加したい。



 「もちろん裏口に持って来てるよ」


 「真木くんごめん、一緒に確認してもらっていい?ちょっと追加とか相談もしたいし」


 「あ、はい大丈夫です」


 「えーと、藤宮くんはー」


 「こっちは引き続き細々としたフォローしておきますよ。あ、今夜ヘアメイクさんの出勤人数増やしましたけど良かったですよね?」


 「もちろん!!すっごい助かる!!!」



 同伴限定なんてことにしちゃってるもんだから、ヘアアレンジの予約なんて開店時間付近が一番混む!

 平日の通常人員でまわせるわけなかった!!

 それにうらら以外にも営業店舗あるんだし必須だった!すっかり忘れてた!



 「じゃあ稲葉くんをお借りして打ち合わせと開店準備させてもらいますね」


 「是非!!!鍛えてください!!!じゃっそゆことで!!!」



 真木くんを引きずるように青果店のお兄ちゃんと裏口へと向かう。

 原価率と相談しつつ、華やかなフィナーレになるよう全力を尽くさなければ!



 「レンタルしたいものもあるし…それを使って真木くんがどこまでアレンジできるのか相談もしたいんですよね…!」


 「ぶはっ!もうレンタルできるっていうの大前提って!!」

 

 「何でもある青果店なんでしょ!」



 私っていうお客様の期待に応えてよ!と傲慢に笑えば「ぜってぇ負けねぇ!」だってさ。

 うちのスタッフじゃないのに完全に溶け込むテンションで嬉しい。




 最終日の水曜。

 本来ならうららと雪柳は定休日。


 ゆっくり休むことを選ばなかった健気で可愛いスタッフとキャストが集まるスペシャルな日。



 入店は同伴限定に加え、19:30~22:00の3セット限定営業にした。

 もちろん1セットで帰ってもいいけれど、今夜は最初から最後まで3セットの滞在をオススメしたい。


 じゃないと、後から人づてに話を聞いてしまえばお客様は必ず後悔するはずですから。

 


イベント編…

やっと終わりが見えてきましたぁ…!

でも100話超えてしまう…



_(:3 」∠)_

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