09
副委員長視点。
04:00
アラームが鳴る。
起きているであろう委員長に、10分後モーニングコール代わりのメッセージを送信できるよう準備しておく。
04:20に自宅前まで迎えに来る佐久間さんの車に、もしもギリギリまで寝ていても間に合うように、だ。
『委員長おはよー。もしかしたら夕方雨かもなんで要・折りたたみ傘ね』
俺の自宅は徒歩圏内のマンションなので04:30に出れば5時までには余裕で着く。
委員長も5時からタイムカードを切れるよう私服で来て、そのまま60~90分働く。
昨夜はミモザが定休日だったので桜だけならそれほど時間は掛からないはずだ。
何だったらあの2件の相談案件とやらが無ければ、今日は早朝出勤しなくてもいいくらいだと思うが、できれば時間を有意義に使いたい俺らは、無駄は徹底的に省いていきたい派だ。
準備を怠らなければ余裕が生れ、簡単なミスやロスは減る。
面倒なことは早目に終わらせてやりたいし…、
「それとは別に眠る時間、作ってやりたいけどな…」
ままならない思いが朝の冷たい空気に溶けてゆく。
9階事務所に着けば、5時の5分前。
制服は紙袋に突っ込んでジャージで出勤して来たのですぐ働ける。
「委員長おはよ」
「稲葉くん~~!火曜なのに朝からごめん~~!!」
「あれ?佐久間さんは?」
「佐久間さんはそのままUターンでご帰宅なさいました。でも桜のことは殆どやってくれてたから今日はすぐ終われるよ!」
さすが佐久間さん。
俺がどうこう悩む前に仮眠時間作ってくれてた。
「じゃーささっと終わらせて朝メシにしよ」
食べながら打ち合わせして1時間は眠らせてやりたい。
桜の閉店後にボーイが洗って水切りカゴで自然乾燥させている食器を、委員長がクロスで磨き上げて棚へ戻している間に、各階の潰れて寝ているスタッフ、始発待ちのキャストを起こして追い出していると、珍しくフリージアの長岡さんがワイン瓶を抱いてフロアで潰れていた。
「副店長ー、朝ですよー。カギ閉めてセキュリティ掛けて夕方まで閉じ込めますよー」
「嫌ダ、オウチカエル」
「はいはい、げろげろげろげろぐわっぐわっぐわ~は外でしてくださいねー」
「冷てぇな…お前んとこのあややに言っとけ。目標130%達成だってな」
床に寝転んで親指立てられてもな…
涎あともあるしカッコつかねーよ?
「何か煽られてたんスか?」
ぐすぐすと愚図り始めるダメな大人はっけーん。
「あいつここの誰より仕事にシビアだもん…頼れるお兄ちゃんポジで居たいなら頑張るしかねぇじゃねーか…ぐすん…」
よしよし、頑張った頑張った。
男を労わる心なんて一切持ち合わせていないと思っていたけれど、ちょっと同情するわコレ。
レジ下の棚から鞄を取り出し、ペットボトルの水を用意して手渡す。
「下でタク捕まえてくるんで1分で降りてきてくださいよ」
「うちの子じゃないのにいい子だなーオイ。ミモザ・クオリティやべぇ」
「はいはい、とりあえず起きて水飲め」
無理矢理ソファに起こしてキャップ開けてボトルを口に突っ込む。
「うぉっぷ、介護されてる…もうおむつ穿こうかな…」
「はいはい、穿いていいから今夜も頑張りましょうねー」
長岡さんをタクシーに放り込んで8階の桜に戻るとキープボトルの空ビン確認をし、台帳に空ビン記入まで済んでいた。
お客様も憶えていないことのほうが多いので「いつ飲みきったか」は記録しておかないと小さなトラブルの種になるらしい。
まぁ空になった時点で上層階のお客様はすぐキープボトル入れていただけるし、どちらかと言えばキープの期限が3ヶ月なので、週1で確認する期限チェックのほうが重要ではある。
空ビンはもう明日ゴミ捨てでいいか。
「委員長、今日はビラ何枚撒く?」
「んー、50、50と募集ティッシュ20、20で」
「おっけーおっけー、事務所で準備するわ」
「ありがとー。今日和食でいい?」
「もちろん!何でも美味しくいただくけど、良かったー今日和食の気分だったんだよねー」
「そっか」
ほっとした笑顔の委員長。
あー、家から何か作って持ってきてた感じか。
「昨日スーパーで金目が割引だったから煮付けてきたのチンするね」
もー。忙しいのに何やってんの。
俺にそこまで気ぃつかわなくていいのに。
「じゃ事務所戻ろ」
「うん」
気を張りすぎていて、いつかドバっと決壊しそうで怖い。
弱音、ちょっとくらい吐けよって思う。
まだ知り合って1年やそこらの俺じゃあ頼りないか?綾瀬。




