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 「おはようございまーす」


 誰も居ない事務所に向かって挨拶をする。

 もう夕方のいい時間なので、それぞれの店舗が開店準備をしているし暫くは誰も戻って来ないだろう。



 「委員長、どうする?一応着替えておく?」



 そう、今日は私も稲葉くんもバイトは休みになっている。 

 2日目はミモザのシフトに入ろうと思っていたんだけど、まゆちゃんが働かなくても見学はしたいだろう、と気を利かせてくれた。

 そして店に還元しろよ、という圧を掛けてきた。



 「そだねぇ、着替えよっか」



 更衣室に入っていつものスーツに袖を通していると事務所が騒がしくなった。

 こんな時間に人の気配が増えるなんておかしいな?と思っていたら稲葉くんから早く出てくるよう催促される。


 ソファのほうを見れば人影があった。



 「面接の予定とかあったっけ?」


 「あや姉!」


 「え?若様?…とそれに…」



 ペコリと会釈をする中学生3人。

 肌ぷりっぷりだなぁ。

 


 「なぁに、遊びに来るとこじゃないよ、ここは」


 「違う!遊びに来たんじゃない!何で教えてくれなかったんだ!」



 え、何が?


 話が全く見えてこない。

 顔をプリプリと赤くした若様と、借りてきたネコ状態のお坊ちゃま学校の制服を着た中学生。



 「桜の店長じゃなくってあや姉から聞きたかったし!」


 だから何なんだ?と稲葉くんを見れば俺もわかんないよと首を横に振られる。

 しかも私の父親づて?



 「ここの赤字店舗請け負ったって!3日で結果出さないとヒドイ目に合うって!」


 

 ヒドイ目に合うの?私が?ヒドイってどんな?


 思わず稲葉くんを見たけど、そんな話は聞いてないし…これは完全に騙されて遊ばれているね。


 あー、あったま痛い。

 血の繋がった身内が憎い。


 子どもを弄ぶんじゃない。



 「で、何で若様が来てるの?若様が来てもお客にはなれないでしょう」


 「あっあや姉以外に興味なんかないからな!?そうじゃなくて!男衆連れてきたんだよ!」


 「おとこしさん?」



 それってあれでしょ、舞妓さんの着付けする人でしょ。

 そういう役することもあるかもしれないけど微妙にジャンル違うでしょ若様。


 

 「…聞いてないの?19時からお練りやるんだよ?」


 「で、このビラ撒くっておっしゃってました」



 若様の横から大人しそうな男の子が顔を出して、ビラを渡してくれる。

 うん、うららの号外ビラだね。


 セット料金と、ボトルイベント、ビール1杯無料券しかついてないけど昨日のことに少し触れた文章もある。

 使われた店内写真はぼかしてあるものの、盛り上がってるのが分かる1枚だ。



 「で、お練りは誰がやるって言ってた?」


 にっこりと笑顔で凄めば若様も他の中学生もたじろいでいる。

 トラウマレベルの壁ドンでもしてやろうかしら。


 

 「に、ニナさんが…今ミモザで着替えてて…」



 あのお姉様はまた派手なことを!!

 てか更衣室から事務所を大掛かりな着物では通りづらいからだろうけど…店舗で着替えるか!?

 堀くんが仕事してる気が全くしない!!



 「俺らもこれからここで…」


 「ソファに置かれたその包み…たとう紙の中身って…」

 

 ちらりと赤い着物が見える。


 「禿とか…新造役っていうんだっけ?」


 「さすがにあっちで一緒に着替えるの恥ずかしくって…」


 

 年相応に頬を染める中学生男子たち。


 「いやいやいやいや、君たち!保護者の皆さんが心配するようなことしちゃダメでしょう!」



 「・・・・・」


 「あの、ウチは行って来いって言われました」


 「俺んちも。ちょっと勉強してこいって」


 「僕の父は今夜同伴してきますし、多分その後一緒に帰るんで大丈夫です」



 え、ありがとうございます?

 同伴ってことはもしかしなくても私の担当キャストのお客様の息子様って可能性が高いってことですか。

 

 


 「…なんだか色々巻き込んでしまい申し訳ありませんでしたァ!!」


 心からの土下座をするしかないよね!

 あとで晩ご飯も作りましょう!! 


 

 「…来といて良かったね、綾瀬マネ」


 

 そうですね、知らないところで大暴れされたらたまったもんじゃないですからね。



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