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 「はーい、じゃあ鍵掛けるから夜までここに居続ける人以外出てくださーい」


 

 そんなの絶対嫌だと言わんばかりに裏口からゾロゾロと帰っていく。

 扉を押さえながら「はい、お疲れ様でしたー」「ゆっくり休んでくださいねー」と帰っていくスタッフたちに声を掛ける。



 「もう居ないねー!?セキュリティも掛けるよー!!」


 

 しーん。



 店舗からは誰の声もしないので戸締まりをし階段を下りていくと、1階のビル前には稲葉くんと…何人かのスタッフが待っていてくれた。



 「千葉さん、藤宮くん!真木くん!3人は早く帰って寝てください!」

 

 「ちょ、綾瀬マネ、俺らは?」


 「堀くん松本くんは遅刻しないようにちゃんと授業行く!!」


 「いや、綾瀬さん俺らも大学あるし」


 「藤宮くんと真木くんは1日くらい休んでも良し!」


 「「「「いや良くないし」」」」



 ツッコミが揃いましたね、仲良しさんですかそうですか!



 「私もロープレ合宿して親睦深めたかった…!!!」


 「多分それ佐久間さん許さないと思うよ…」



 稲葉くん一言多いっ。


 とりあえず待たせてしまったみたいなので私がシメの挨拶をすれば解散になるだろう。

 


 「まぁとりあえず、1日目無事終了?ってことでお疲れ様でした!」



***



 それぞれ帰宅していく背中を見送って、稲葉くんと駅へと向かう。

 うん、日常に戻っていく感じで落ち着く。



 「そういえば、岬さん居なかったね?」


 「そういえばって…。ロープレがひと段落した時点で帰ったらしいよ、明日もあるからって」


 「それもそうか、どちらかと言えばうらら的には今夜が正念場だもんなぁ…あ、稲葉くんレシート」



 さっきの買出しで出費させてしまったので後で返そう。


 「いいよ、あれくらい。経費で落とすとか言いながら委員長が払うんでしょ」



 だーかーらー!そゆの稲葉くんは気にしなくていいのに!

 


 「ヤダ。レシート渡してくれなきゃ…」


 「渡してくれなきゃ?」


 「…口聞かない?」


 「ぶはっ!それで困るの委員長でしょ」



 確かに!

 学校でもバイトでもお世話になりっぱなしだし!


 

 「うーーーーん」


 「じゃあいっこお願い聞いてくれたらレシート渡すし」


 「いっこ?」


 「いっこだけ、簡単なやつだよ」


 


 じゃあそれで、って言ったのが間違いだった。

 簡単じゃなかった!簡単じゃなかったよ!!


 いつも通りホームに入線してきた電車に吸い込まれるように稲葉くんを盾にしながら中へと進み、反対の扉側までたどり着くと、僅かなスペースで稲葉くんが身を捩って私を扉側へと寄せる。


 いつもなら!

 この一瞬だけがハグ状態で、あとは扉側に顔を向けて稲葉くんに背中を預けるんだけど…。



 「ほら、委員長、お願い聞いてくれるんでしょ」



 む、向かいあったままだし!

 甘い吐息が真正面から掛かる!



 電車の入線直前に言われた稲葉くんのお願いごとは学校の最寄駅に着くまで、だ。

 しかも私から、っていうリクエストだった。



 「いいの?レシート渡さなくて」


 「よくない…っ」



 覚悟を決めて、稲葉くんの胸元のシャツを掴んで頬を寄せる。

 うう…あったかい…!



 「委員長?これってハグなの?カツアゲスタイルっぽくない?」


 「えぇー…ダメ?」


 「ダメじゃないけど、――ハグってこうでしょ?」


 耳元で囁かれ、腕を回されぎゅっとされる。



 「ひっ!!!」



 もう温度も香りも抱きしめられる力強さも、肌の全部で稲葉君しか感じない。

 呼吸が浅くなり、心臓も稼動し過ぎて故障しそう。


 ぎゅっぎゅっぎゅっと何度も確認するように抱きしめられる。


 ぎゅっと力を少し加えられる度に心臓が口から出そうだし、頭に柔らかい唇の感触を何度も感じながら、体はどんどん固まっていく。


 

 「ハグ、してくれないの?」



 小さな声で、少し悲しそうに囁かれてしまっては仕方ない。

 固まる体を無理矢理ギギギと動かして稲葉くんの背に汗びっしょりな手を回す。



 嬉しそうにぎゅうっと抱きしめ返されて、短いはずの通学電車の時間は、いつもの10倍くらい長かった…!



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