08
ビラ配りして更衣室で着替えタイムカードを切れば20:02で、8階 club桜の店長でもある父がようやく出勤していた。
「重役出勤ですか、いいご身分ですね桜店長」
「うっ…愛娘が冷たい…」
開店時間を考えれば遅くはないんだけれど、他店舗との会議とかこつけて大した話もしていないのをたまに会議に出ている私は知っている。
小学校の2年目に入ってすぐ離婚した父親に引き取られ、家に置いておくのは心配だからとこの事務所に連れられ約10年。
知らない場所に知らない大人たち、邪険にされないよう居場所を作ろうと必死に努力して始めた掃除や皿洗いが今に繋がっている。
古参の黒服スタッフが優しいのは新人ボーイ時代から私の面倒を見つつ、一緒に頑張ってきたからだろう。
眠い目を擦って授業参観にも来てくれたチャーリーさんのほうがよっぽど父親らしいし、勉強や学校の友人関係で悩んだときに相談にのってくれた長岡さんは頼れるお兄ちゃんだし、中学1年の時にこっそりお赤飯炊いておめでとうと言ってくれた佐久間さんは頼れるお母さんだ。
「お客様のおもたせ用に花鳥亭のお菓子を少し用意してありますので佐久間さんの指示に従ってお渡ししてください。あ、生菓子が1人分あるんですけどそちらは多分お客様がお召し上がりになるので必要であれば戸棚に入っている籠を出してください。野点セット入ってます。」
「あ、ハイ受け賜りました」
「じゃ、お疲れ様です」
まぁ血が繋がっていても家族なんてこんなもんだ。
家まで徒歩と電車で45分。
繁華街を離れ、まぁまぁ静かな住宅街までは少し時間が掛かる。
学生鞄に私服、と不釣合いな格好に若干嫌気がさすものの鞄から教科書ガイドを取り出す。
あーあ、稲葉くんみたいに人生1回くらい塾にも行ってみたかったな。
塾も家庭教師もなしで、私はどこまでやれるんだろ。
不安しかない。
あ、そうだ稲葉くんにメッセージしよ。
『相談案件2:校外学習とバイト(うららヘルプ)要請←私も行くよ!』
『詳しくは明日話すので昼休みの時間下さい。m(._.)m 』
色気も何もあったもんじゃないなぁ…
はぁ、帰ったらどっちも概要まとめなきゃ。
今夜の晩ごはんはスーパーの見切り品けってーい。わーい泣いちゃうぞー。
家に着いて洗濯機回してシャワー浴びている間に返信2件。
『お疲れ様。相談案件とりあえず了解。』
『明日は朝から出勤するの?だったら俺も朝は事務所寄ってくよ』
~~~…ッ!!悶え殺す気か!!
優しさがささくれだった心に沁みるぅ~~
『ありがとー。いつもいつもいつもいつも…ホント助かってます!おやすみなさーい!』
まだ寝られないけどね。
さぁもうひと頑張りしますか!




