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「スゲーよ、俺の負け負け。さすが雪柳で揉まれてるだけはあるって感じだった」
「いや、八木さんのフォローするわけじゃないっすけど、ウチとは店のタイプが違うから藤宮さんにハマっただけっていうのもあると思いますよ」
そうフォローする松本くんが言うには、一番込み合った時間帯を再現した付回しロープレだ。
女の子の名前を20枚カードに書いて座席に置いていく。
5分後、10分後という時間経過のコールや指名やボトルコールが増えていく状況を藤宮くんがお手本に1度してみて、その後にうららの筑紫フロアマネと八木くんもやってみたらしい。
ミモザはVIP席が完全に一般席と隔離されているし、新規客の割合も少ない。
常連のお客様も短時間で帰るような人はまず居ないので、ゆったりと丁寧な接客を心がけて居心地の良い空間であるよう演出することにフロアマネを含めスタッフは注視している。
確かに普段と違う接客スタイルで臨む八木くんには分が悪い。
それに対し雪柳やうららにはVIP席などはなく、見渡さなければならない座席数も多いし価格設定も低めのため新規客の割合も多い。
お客様の反応を見ながら次はどこに誰をつけるのかと状況に合わせてキャストを動かしていく。
その手間を減らすためにフロントで案内する時にタイプを聞き出すことが出来れば1番目はともかく、2番目、3番目に交代させるキャストもフロアマネは戦略を早めに組み立てられる。
どこの席が終了間際か、延長が取れそうな席での3番手は誰か。
指名が入れば入るほど無理に回せるキャストは減っていくので、フロアを上手に回して戦略を組み立てれば立てるほど、頭の中にある現場の情報更新量はとんでもないことになる。
指名が取れれば言うことはないが、ソレが無くても店のファンになってもらって何かの折には店を使ってもらえるように満足度を高い位置でキープして帰ってもらうというのが、うららや雪柳のような低価格店舗のやり方だ。
そのため1人客は少ないのでキャストは1人指名客を捕まえれば、そのお客様はかなりの確率でフリーの友人を連れてくる。
色恋営業はしなくてもいい分、会話術に長けていなくてはならない。
指名してくれたお客様だけを大事にしていても友人を放っておかれれば、そのお客様の足も次第に遠のく。
その辺の指導もあって、雪柳のキャストは2人も残ってくれていたんだろう。
朝日が入ってくるような窓はないので彼女達の顔色は分かりにくいけれど、きっと帰りにはマスクとサングラスが必須だろう。
もしくは誰とも顔を合わせないタクシー。
…ちょっと肌にイイものを用意してあげたい。
稲葉くんに美容ドリンクも2本追加で買ってきてくださいとメッセージを飛ばした。
「まぁでも…俺もまだまだってことだよな」
…ちょっと落ち込んでいる八木くんにもフォローが必要みたい。




