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「あや、そろそろ起きられる?」
「…ん、佐久間さん…?おはよー…」
まだ薄暗いけれど、どうやら気付いたら眠っていたみたいだ。
眠れないと思ってたんだけどなぁ、とぼんやりした頭でそんなことを考える。
「はい、おはよう。顔洗って目を覚ましちゃいなさい」
「は~~~~~い」
両手を広げて起こしてーとアピールすれば仕方ないわねぇと抱き起こしてくれる。
なんだか今朝はゴキゲンだ。
目覚ましアラームを消して薄明かりの廊下を歩いて洗面台へと向かう。
洗顔が終わって化粧水を使ったところでふと思った。
「あれ?でも珍しいな」
いつもは車で降りてくるのを待っててくれてるのに、部屋まで来てるし。
着替えに部屋に戻ると着替えが用意されていた。
「うーん、このお母さん感ハンパないな」
そもそも、部屋に鍵も掛けていたはずなんだけど。
いや、佐久間さんくらいしか鍵渡してないからいいんだけど。
話し声が聞こえるリビングへ向かうと、もう稲葉くんは起きていた。
「あ、おはよー委員長」
「おはよー…」
ん?何で稲葉くんがキッチン立ってるの?
しかもこのいい香りは…
「ああ、佐久間さんの言うことは絶対だからねー」
「まぁまぁ美味しいわよ、あやも淹れてもらったら?」
「んー、佐久間さんのひとくち貰うー」
わざわざ淹れてもらうほど朝から量飲めないしなぁ。
佐久間さんの隣に座って頭を撫でられながらひとくちコクリといただくと、ビターでコクのある男の人が好きそうな味だった。
「これは目が覚めるねぇ。あ、美味しいよ稲葉くん」
「それはどーも」
はぁ、とため息つかれちゃったけど朝から佐久間さんに使われて疲れてるのかもしれない。
いや、いつもは私がいいように使ってるのか、反省。
「朝早くから私たちにつき合わせてごめんねぇ」
「私たち、ね。しかも反省してほしいのソコじゃないし」
疲れた顔の稲葉くんとは対照的に佐久間さんはさっきよりもゴキゲンだ。
ふふんと得意気に稲葉くんに笑顔を向けたと思ったら、車のキーを取り出した。
「今朝も行くんでしょ?――あやが寄らなくてもいいくらいどの店舗も片付いてると思うけど」
「うーん、目も覚めちゃったし一応ね」
佐久間さんに運転をお願いして先に出てもらい、急いで出掛ける準備をする。
まゆちゃんはまだまだ爆睡中だから、起きた時に不便がないようテーブルに書置きと家のスペアキーを置いておく。
午前中…起きるのかな。
とりあえず家にあるモノは好きに食べてくれたらいいけど。
冷蔵庫の中に常備菜がいくつかあるのを確認すると、キッチンのシンクにフライパンを見つけた。
「ああ、委員長ごめん、カップ洗うついでに後で洗えばいいと思って置きっぱなしにしてた」
調理台を見て、部屋に充満する香りの強さに納得した。
袖を巻くって横に立ち、スポンジで洗い物を始めてくれる。
「飲み頃は3日先らしいよ」
ザルのまましばらく乾燥させたら黛副店長が起きた頃に冷凍保存してもらって、って…朝から何させてるんだ、佐久間さんってば!
まさか朝イチで生の珈琲豆を焙煎させるとか何の罰ゲーム!
「ほら、佐久間さんの言うことは絶対だから」
顔に出ちゃってたか。
「いやもうホント…何かごめんね」
「まぁ佐久間さんの気持ちもわかるからなぁ、仕方ないって。――ふたりっきりだっただろ?」
「ッ!!!」
にやりと思わせぶりな態度と声色で屈んで視線の高さを合わせられた。
首も傾げられているもんだから、もうあれだ、目を閉じたらダメなタイミングだ、昨日言われたやつだ!
顔が熱くて仕方ないけれど、稲葉くんの機嫌も直ったようで「じゃ、行くか」と促される。
な、なんかもう一気に疲れた気がする…!
一応まゆちゃんも居たんだからね!
夏休みという名の繁忙期。( ノωノ)ゆっくりしたい。




