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 お風呂から上がって鏡を見ると、ほくほく顔の自分が居た。

 

 入る前から不自然に赤くても、今なら湯上がりのせいにできるし少しホッとする。



 自宅なのに寛げない…。

 あっ…!あの人もこんな気持ちなんだろうか。


 だから帰って来てもなるべく会わないようにしているのかも。

 


 そんな風に現実逃避していても仕方ないのである程度拭いて着替えたところでリビングへと向かう。



 「…お先でしたぁ…」


 「おつかれー。ほいコレ使って」



 ゴソゴソと鞄から取り出されたのはフェイスパック。

 いくつかあるみたいだけど…何で?



 「岬さんからのプレゼント」

 

 一瞬稲葉くんの目が死んだように見えたけど、気のせいかな?



 「うわぁ~、美白成分入りとか金箔入りとか動物柄とか…今は色々あるんだねぇ」


 意外とこういうのって自分では買わないから嬉しい。

 あとでお礼メールしなきゃ。



 「じゃあどれ使う?」


 「ん?うーん…どれがいいかな…動物のにしようかなぁ」


 「おっけーおっけー、じゃあこっち座って」


 「ん?!」



 たしたしと自分の前の床を叩く稲葉くん。



 「俺の膝の上でもいいけど?」


 「いえ!床で!床がいいですね!床さいこー!」



 思わずその場で正座してしまったので稲葉くんとは距離がある。

 


 「ぷはっ。もうちょっとこっち来ないと俺の手そこまで伸びないよ」



 ごもっともなご意見を頂戴して仕方なく立ち上がって近づく。

 今度は座るのに勇気がいる。


 

 「委員長、座ってくれなきゃシート貼れないよ?」



 くっ…!この顔ヤバい…!

 笑いをこらえながらだけど上目遣いされて、ますます固まってしまう。

 


 「ほーら」と手を少し強めに引かれては前のめりになってしまい抱きついてしまう。



 「委員長ー、これじゃあちょっと近すぎて貼れないかなぁ」


 えぇっ!私が悪いのー!?

 軽くぎゅっとハグされたと思った瞬間にぺりっと剥がされて、くっくっと笑いをこらえている稲葉くんと目があった。


 

 「じゃあシート貼るから前髪上げてて」


 「…わかった」



 取り出された化粧水たっぷりのフェイスパックには可愛らしいヒゲや鼻が描かれている。

 


 「じっとしてて」


 言われなくても全身石のように動けない。

 稲葉くんはパックと私の目と鼻、口の位置を目測しつつ、ヒンヤリするシートを少しずつ当てられていく。


 心臓が口から出そうだ。


 正座している私を抱きこむように膝を立ててシートを顔に這わしていく。

 ヒンヤリしているのにシートごしに触れられている指先が熱い。



 「こんなもんかな…どう?」

 

 「!!!」



 両頬を私より大きな手で押さえられる。

 手でシートが温まればより化粧水の成分は染み込みそうだけど!だけど!だけども!!



 「委員長…このタイミングで目ぇ瞑るのはダメだって絶対…」


 で、でも見てられないっていうか!!

 いや!言わんとしてることは分かってるけど!けどけどけど!!!


 そんな色っぽいため息つかないでぇ~~!!恥ずかしい…!!



 「ごっごめんなさい…」


 頑張って目を開けて稲葉くんを見れば稲葉くんの頬も少し赤い気がした。



 「でもまぁ、さすがにネコと同意のないキスをする気はないから安心してくれていいよ。ほら、髪乾かすから後ろ向いて」


 「ハイ…」



 適当でいいのに前回と同じく優しく丁寧に乾かしてくれている。

 ドライヤーの音で聞こえてくる鼻歌は、今夜も甘い。


 Stand by me


 俺の側にいて、ですか。


 

 むしろいつも側に居てもらっている気しかしないんだけどな。

 

 それに。


 ずっと側にいれば、人間と同意のあるキスは、してもらえたりするんですか、稲葉くん。


 

 繰り返される歌詞に、私だってずっと一緒に居たいよと何度も心の中で願った。



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