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 うらら開店から2セット目の21:10。

 藤宮くんからインカム無線で連絡が入る。



 『綾瀬さんと稲葉くん、お疲れ様です。そろそろ上がってください。』


 『畏まりました』


 「『はーい、ありがとうございます』」



 うーん、私は店が変わっただけでやってることいつもと一緒だったなぁ。

 何の波乱も新鮮さも無く、ただ担当キャストにびっくりさせられただけ。



 「すみませんお待たせしました!交代しますね!」


 「あ、お疲れ様です」



 うららのフロアマネ、筑紫さんが慌ててやってきた。


 いつもこの人忙しそうだよなぁ…

 その割に何かやってるって感じしないのが引っかかる。



 「こちらこそあまり働けなくてすみません、折角の学べる機会なのに」


 藤宮くんの後ろにぴったりくっついて観察できるなんて羨ましすぎるよ。

 私はフロアマネやる予定も無いし、やれるとも思って無いけれど磨き上げられた技術を間近で見られるなんて…!



 「いやもう何ていうか…いえ、何でもないんで先上がっちゃってください!」



 その反応は何でもないことないだろう。

 何でちょっと嫌そうな顔したんだ。


 

 「…まぁ、私たちみたいな年下に今さら指導なんかされたくはないと思いますけど、ちゃんとやっといたほうがいいですよ」


 「いや!そういうことじゃあないんだけどね?!ただほら…やり方ってそれぞれじゃない?」



 そのそれぞれのやり方がねぇ…。

 筑紫さんのやり方も、うらら崩壊原因のひとつだと思うんだけど。

 場当たり的な対応でその日その日をやり過ごしていては臨機応変というより無計画と言ったほうが正しい。


 こういう人が多く流れてくるもんだから未だに「商売」の前に「水」が付いているような気がする。


 「学歴」の前に「高」は付いていなくてもいいけれど、高水準の接客は求められているのだからそれに見合う努力をし続けなければ、高い代金に見合わない。


 

 「まぁそれぞれではありますけれど、そんな甘いこと言ってられないと思いますよ」



 何が?って不思議そうな顔してこっち見られてもなぁ。

 もういいか、言っておこう。


 

 「明日は私たちミモザのスタッフはヘルプに入れないんですよ?」



 今夜は定休日の月曜日だから、私を含め4人もミモザからやってきた。


 3日間通しで入っているのは藤宮くんと岬さんだけ。

 もう何度合掌すればいいんだろう。

 私の思いつきで巻き込んでしまって感謝しかない。


 

 「…気付きませんか?明日、定休日の店がヘルプに来るんですよ?」

 

 「―――ッ!!!!」



 ヘルプっていうか一気にHELLな感じしかしないですよね。

 むしろ今になって「助けて!」って青い顔されてももう遅い。


 だってもう…


 「じゃあ藤宮くんにも言われたし上がりますね、お疲れ様です♪」



 そう言い逃げしてフロントを後にする。



 いやぁ…必死っていいよね。


 努力だけじゃなくて結果を出さなきゃ必ず死ぬって自覚してしまうんだから。



 しかもどうにか藤宮くんから技術を盗まなきゃ!と思った時には軽く蚊帳の外のフロント。

 インカム無線で聞いてヒントを拾うこともできるけれど、間近な現場で見れた環境を思い出せば盛大にしくじったことに気付いたはずだ。



 藤宮くんには言ってあるけど、今日しかヘルプに入らない松本くんと堀くんも、うっすら察しているから優しさ溢れるマンツーマン指導に切り替えたんだろう。


 というか、明日「そんないい加減な仕事を誰に覚えさせられた」なんて言われたら困ること間違いなしだもん。


 

 「委員長お疲れ様~」



 事務所で蝶タイを外して首元を緩めている稲葉くん。

 うっ。眼福。かっこいい。



 「お疲れ様ですっ。どうだった?フロア」


 「プロレスのバトルロイヤル並みの迫力あったよ!」



 あれ、そんな興行をした覚えはないんだけれど。

 おっかしいな、ここは戦場じゃなくて社交場だったはず。



 「火に油を投げ入れるようなお姉さま方はさすが委員長のキャストなだけあった!」



 そんないい笑顔で思い出し笑いされても。

 え、私もさりげにディスられてる?



 「えーと、その話はまた聞くとして、うららのスタッフは?」


 「どうだろうね?手は出させなかったから本当に立たせてるだけだし、まだ危機感ないんじゃない?」


 「うわぁ…」


 「でもまぁ先輩たちがどうにかするんだろうし…明日は佐久間さん来るんだろ?」



 こっくりと頷く。

 

 「何なら明日のフロント担当も綾瀬っていう名前の人だって」



 稲葉くんの目がカッと開いた。

 ですよね、びっくりするよね、引き受けると思わないよね。

 私も佐久間さんから聞いた時、びっくりしたもん。



 このビル一番の高級店担当である桜の店長がヘルプでフロント。

 ホールのスタッフが岬さんに加えて佐久間さん。


 明日このビルで定休日なのはclub桜だ。



 藤宮くんがバックアップに徹するとは言え、明日メインのフロアマネは、筑紫さん。

 

 

 「俺…明日うららじゃなくて良かった…」


 「だよね」



 ふたりでついたため息がシンクロしたところで稲葉くんが時計を見た。


 

 「あ、あと20分で黛副店長来るから早めに着替えて」


 「え、何でまゆちゃん来るの?」


 「何でって、家まで送るためだろ?佐久間さんから聞いてなかった?」


 「…聞いてない!」


 「てか黛副店長も今夜は委員長ん家に泊まるぞ?」


 「えぇっ!まゆちゃん泊まるとか珍しい!あっじゃあ着替えてくる!!」


 

 まゆちゃん待たせるとうるさいしなぁ。

 てか急に来るとか言われても困る!

 枕にこだわりあり過ぎてうちに置いてあるまゆちゃん専用枕!押入れに入れっぱなしだし!

 消臭剤スプレーでどうにかなるもんだろうか…!!


 



 「遅い」



 20分以内に着替えたけども、まゆちゃんはもう事務所に来て週刊誌を広げている。


 

 「私はまゆちゃんと何も約束してないけど!?」


 「知るか。行くぞ」


 

 完全オフ日だから愛想も何もあったもんじゃない。

 それでも迎えに来てくれたんだからしぶしぶ着いて行く。



 「休みの日に店に来させることになってごめんなさい、ありがとうまゆちゃん」


 「仕方ないからな。その代わり、家で一番いい羽毛布団出せよ」



 睡眠第一!

 寝る子は育つっていうのにどうしてこんな育ち方したんだろう!

 ツンが過ぎる!!



 そんなことを考えながら車に乗り込むと「奥詰めて」と稲葉くんも乗ってきた。


 「あれ、近いのに送ってもらうの?」


 「さっき言ってなかったっけ?俺も泊まるって」



 「・・・・・聞いてないよ~~~~!!!!」



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