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 私と稲葉くんは労働基準法を守るためにも最後まで働くことはできない。


 開店1時間も過ぎてしまえばあと90分がリミットではあるけれど、何があるか分からないので、そんなギリギリまでは働かない。



 フロアで神経使って働いている稲葉くんには悪いけれど、待ちがあったお客様も全部フロアが吸い込めば、暇つぶしにコロコロで掃除するくらいしかすることもなく、今日一日長かった割には一瞬で終わったな…と、もうすでに終了モードだ。



 今夜の売上はこの開始1時間で半分は達成しているだろうし、あと3時間もあるんだからノルマクリアは大丈夫。

 

 簡単に開いていくボトルを見て「私にも出来そう」と思うキャストも居るだろうし、店内の空気に飲まれてくれるお客様もそろそろ出始める頃合だ。


 今夜出勤しているうららのキャストも、店内の賑わいを見てやっと気付いたんじゃないだろうか。


 「限定のボトルなんかあって何になるの?あってもなくても関係ないじゃん?」と思っていたところにヘルプと称した他店のキャストが同伴でどんどん消費して本数は減る一方だし、場内指名は掠め取られた挙句、派手にシャンパンタワーしてSNS映えする写真を撮っている。


 「別に興味ないし」と装っていてもバレバレで、強い自己顕示欲を持ちながら指を咥えているだけ。


 

 待機スペースで岬さんに促されてた時は半信半疑でヤる気のないメッセージ打ってたんだろうけれど、高額バックやお客様還元キャンペーンが「3日もある」んじゃなくて「たったの3日しかない」とようやく焦って、今夜・明日は必死にアドレス帳を掘り起こすんだろう。



 うーん、いいね。必死。



 そんな事この店来てからしたことなかっただろうに。


 自分にデメリットがないハイリターンだと思って、このビル以外の店に流れていった過去の指名客を呼んでくれたら、3日も拘束してしまう藤宮くんも浮かばれるだろうしね。



 フロアに合掌しとこ。

 しんどいとこ全部担ってもらってありがとうございます…!


 この恩は…なるべく忘れません…!!



 

 スタッフは、どうだろうな。

 チラッと見れたのはさっき松本くんの後ろに着いてきた中尾くんだけなんだけど…特にこれといって問題は無い気がする。


 ニナさんが要求した水も、ペットボトルで常温のものと冷たいものを持って来ていて選べるようにしていたし、その後はストローも渡していた。


 ある意味、キャストによく躾けられてるんだな、と思った。



 影響されやすいというか素直そうだったしなぁ。


 だから、うららの状況に染まったというか、目をつけられないよう順応していったんだろうなと予想はついた。



 じゃあ、具体的に、店のどういう場面で、誰に順応したのか。



 その答えは、私たちが帰った閉店後行われるだろう反省会という名のロープレ地獄で明らかになるんだろう。



 ああ…藤宮くんっ…昼から来てくれたのに今夜は眠れないですね…!

 私は帰ってちゃんと寝るけど…!!


 ほんっっとにごめんね…!

 安らかに3日後に寝てね…!!合掌…!!

 



 チン!とエレベーターが開く。



 頭の中で藤宮くんの幸せについて考えていたことを一掃し、お客様をお迎えする。

 


 「『こんばんは、いらっしゃいませ。』」



 「なんだ、綾瀬さんはいつも通りなのか」


 「――『松平さま』。…もしかしなくても後ろに居るの『佐保』さんですよねぇ…?」


 「もちろんよぅ~。ほら私が若い子と張り合った格好しても負けちゃうでしょう?」



 いやいやいや、負けないと思いますよ。見たいですよ佐保さんのミニスカ。

 28歳には28歳にしか出せない可愛らしさってあると思うんですよ。



 なのに!何で!何でそうなった…!!!



 「みんなで話し合ってね、ミモザじゃ出来ない格好をしようってなってねぇ」


 「私も綾ちゃんの王子様になりたくって着ちゃった」



 お願いだからお姫様で居てぇーーーーーー!!!!!



 「あ、もちろん松平さまも綾ちゃんの王子様よ?」



 そう言って佐保さんが松平さんのコートを脱がせれば、目の前のイケオジが恥ずかしそうに顔を背ける。


 ぐはっ!何のご褒美ですか!!ありがとうございます!!っていうかガッツリ巻き込んでごめんなさーーい!!!



 ヨーロッパのどこぞの戴冠式にでも出るお貴族さまですかね?っていう2人が同伴してきた。


 佐保さんの王子様ルック、男装は…こういう男の子も居そうだけど、やっぱり出るとこ出てるからどことなく禁断臭がする。


 

 「何だかもう君たちと知り合ってから新しい扉ばっかり開けている気がするよ…」


 「うふふ、いい人生でしょう?」


 「そうだなぁ…」



 見つめ合うふたりの間には、いつもと同じ優しい空気が流れている。 

 なのに、いつもと違って何だか見ちゃいけないもの見た気がしてご馳走様です!!って言いたくなる。


 フロアから稲葉くんがやってきた。

 さすが、一瞬動じたかと思ったけどすぐ立て直したね…!


 ふたりをフロアに案内する姿がもう執事にしか見えないよ…!

 なにこの胸のトキメキ!今日から腐った女子になりそう!



 『ミモザ、本当にわかりやすくて助かりますね…』



 ごめん!藤宮くん!!!

 疲労がマシマシだね!!


 合掌どころか土下座した。

 多分防犯カメラに映ってるから後で私の誠意を確認してください。



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