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07

各店舗紹介。



 餃子が残らなかったのでもう2人前焼いて3個ずつ小鉢に分け、おにぎりもラップで10個握って、玉子焼きも小鉢で用意する。

 一応10秒チャージのゼリーも用意して、洗い物も済ませたら、トレイに乗せて3~6階の各フロア巡りだ。


 開店時間が一番早い3階のclubうらら。あと30分だからきっとスタッフ朝礼もしていないんだろう。


 そのうち本社から指導入るだろうな…ついでにとばっちり受けそうで嫌だな~~、と思いつつそんな顔は心の中だけで店舗へ向かう。


 


 「あ、おはようございます。準備どうにかなりました?」


 階段でうららの大学生バイトがタバコで一息ついているので声を掛ける。

 ジレ着て蝶ネクタイ締めてるとこ見るとタイムカード切ってるだろうにもう一服かよ、いい身分だなオイっていう気持ちでいっぱいでも笑顔。


 

 「綾瀬ちゃんおはよ~。ごめんねぇ~こっちの手伝いさせたみたいで」


 「いえ、うちの稲葉が少しお邪魔しただけなんでお気になさらず」


 気にしろよ、と思いつつ笑顔貼り付けたまま対応。

 たぶん、遅刻野郎ひとりで全部させてるんだろうな。就活失敗しろ!と呪っておかなければ。



 「副店長もう来てます?」


 基本どの店舗もその日の店の状態を把握しているのはキャッシャーも兼任する副店長だ。

 一番気苦労の多いポジションで、店を上手くまわせるかの要は副店長の手腕によるところが大きいと思う。


 本社、店長、キャスト、黒服、すべての板挟みポジション。


 気苦労が多く、なるべく気にかけて労わっておかないと、ある日突然飛ばれると店はとんでもないことになるので、何かできるわけではないけれど、同じビルに入っている仲間でもあるんだし様子見はできる時にしておく。



 「千葉さーん、綾瀬ちゃん来たよ~」


 非常階段のドアを開けて通してもらう。

 とりあえず愛想愛想、笑顔笑顔。


 「ありがとうございます。」


 「いいえ~そのうち合コンしよーねー」


 「あっはっはー。これでも特進科なんでそんな暇ないですねー」




 後ろでフラれたーとか聞こえてきたけど知らん。



 「千葉さんお疲れ様です、食事はもうお召し上がりになられましたか?」



 青白い顔の千葉副店長。

 うーわーぁ…いつ飛んでも不思議じゃなーい。



 「あぁぁいつもごめんねぇ~~~」


 「摘めるもの持ってきたんでとりあえず胃に入れてくださいね」



 有無を言わさずレジ横におにぎりと小鉢の餃子、玉子焼きを置いていく。

 おにぎりにかじりつきながら出勤情報をホムペに打ち込んでいるのを覗き見する。


 パソコンのモニターにはずらりと15人以上の名前がアップされている。

 

 「今日もそれなりに出勤ありますね~同伴者はどうです?」


 「今のとこ確定してるの3人だけなんだよねぇ…」


 「うわぁ…キツ…」

 

 ながーいため息で魂も抜けてそうな千葉さん。


 「あとでクーポンビラ配っていいなら許可証とビラを階段のとこ置いててください」


 「えっ!いいの!?」



 ティッシュは配ってもティッシュそのものが目当てで店に来てくれる確率は低いが、ビラは少し確率が上がる。

 ただし、受け取ってもらえる確率が減るんでなかなか辛いんだけど。


 「開店から30分くらいだけなら千葉さんのために気合い入れてやりますよ!」



 てかタバコ吸う暇がある大学生が今行けよ、って感じだけど。

 ああ、スーツ着るとどんどん口も思考も悪くなる気がする。


 じゃあまた後で、と4階へと向かう。



***



 4階 clubフリージア八番街、19:45~24:00営業、木曜定休。


 フリージアは全国に何店舗もある白のスーツワンピが制服の店で、八番街っていうのが八番目に出来たお店ってこと。

 衣装も全国共通で価格も基本的にどこの店舗でも変わらないためか安心して飲めると、お店そのもののファンも多い。

 価格帯もそれほど高くなく、学生バイトが多く若くて初々しいキャストも多いので、夜遊び初心者にはこちらをオススメしたい。



 ゴンゴンっと裏口でも一応ノックしてから

 「長岡さんおはようございま~す、お届けものでーす」


 「え、ハンコいる感じ?血判でいい?」


 チキチキとカッターナイフを準備され、「要らない要らない!」と全力で拒否しつつ、長岡副店長に炒飯とツナと梅干しおにぎりありますよ~とトレイを見せる。



 「多分うらら目標金額ムリそうなんでフリージア頑張ってください!」


 「えぇ~…うちも月曜はそこそこ厳しいんだって~~」


 あ、梅干し選びますか、どっかの卓で飲む気ですねヤル気ですね素敵ですね。


 「うらら早仕舞いで客が流れてくるかもですしお願いしますよーぅ」


 「うららの子じゃないのに!出来た子!」


 「三銃士の精神ですよー。うちも大変な時には助けてもらいたいですしね!下心ありきです!」

 

 

 清々しい下心だな!ほめとこう!とスプレーで固めた頭をぐりぐりされる。

 何も頼まれないし焦りもないし、とりあえず今日のフリージアは大丈夫そうだ。

 

 じゃあまた何かあったらお願いしますと念押しだけして5階へ。



***



 5階 club雪柳 西玖区、20:00~25:30営業、水曜定休。


 このビルで一番営業時間が長い、チャイナ服の店で、フリージアと同じく全国に同じ仕様の店舗がある。


 在籍しているキャストの年齢幅があり、アジア圏国籍のキャストも何名か在籍、子持ちも居れば、実は元男も1人居るという何かとグローバルな店舗だ。

 

 平日は平日で何かしらイベントをしているし、週末は売上の上位者のダンスショーもあり、びっくり箱のような店。



 ゴンゴンっと裏口をノックしてかーらーのー

 「田中さん~ニーハオー」



 「あ、副店長今日休みです」


 「え、マジすか。なんで風邪とか?」


 「2泊3日で台湾帰ってます」

 


 「まーじでー!知らんかったし!」


 「いや、普通他店舗のこと知らないの当たり前じゃないですか」



 そりゃそうなんだけど、先週顔合わせた時にでも教えてくれてもいいのにぃぃぃ。


 お土産期待してると後でメールしとこ。


 

 「えっと…なに藤くんでしたっけ」

 

 えへ。名前憶えてないや。

 トレイは瓶ビールのケースの上に置かせてもらおう。


 あ、しまった今日私持ってない、と申し訳なく思いつつお名刺を頂戴する。


 「藤宮です」



 そう!こっちの大学生は真面目な藤宮マネージャー。

 週5勤務なのにあんまり話した事がないのは、マネージャーらしくキャスト管理に重きを置いているのと、当番じゃなくても早めに出勤すれば雑用を手抜きなしで黙々とこなしているからだ。


 あーうちの店に欲しい人材。


 ふじふじふじふじ…

 「藤宮くんね、今度こそ憶えた!」


 「それはどうも」


 「藤宮くんさ、今度ヒマそうなとき一緒にうららのヘルプ行かない?」


 「は?」



 本社からの研修や副店長の指導があっても…あるのかなあの店…。


 相変わらずナメくさった仕事っぷりのうららバイトどもに黒服の仕事は何たるかを見せ付けてやりたい。


 そして過ごしやすい職場を副店長、キャストに体感していただきたい。

 そうすれば何が違うか上の人間も下で働く人間も少しは考えられるはず。



 「本来は店長会議があってから指示される案件ですね」


 「それ待ってたら副店長潰れるよ。フロアマネも雑用に追われてて本来の業務出来てないし」



 フロアマネージャーは女の子の付け回しだけメインでやってりゃいいんじゃない。

 黒服の指導・管理も含まれている。清潔な店内を維持できていないのなら最低限の指導も出来ていない証拠。


 下を育てるのに手を抜くとこうなる、というわかりやすい見本のような店舗だ。

 基礎や義務教育、下積みの重要さに気づかない限り改善はしないし、いっそ店は潰したほうがマシだ。



 「わかりました、来月のシフト出たら相談させてください」


 「やった!ありがとうございます!精鋭部隊で黒服強化イベ3daysしましょ!」


 「スリッ…まぁ最低それくらいやらなきゃ無理ですよね」



 他店舗の黒服に見下されまくってるぞうらら。いや私もだけど。



 「じゃあシフト出る前にどの3日を充てるか決めてからシフト組んでもらわないと困りますね」


 「明日って藤宮くん出勤?」


 各店舗、うちからは稲葉くんにも声を掛けるとして…各階の優秀者同士の顔繋ぎもついでにしておきたい。


 「はい、綾瀬さんも出勤なら明日ある程度決めてしまいましょう」


 

 よかったー!いい返事聞けて!

 「ありがと!藤宮くん3日間フロアマネね!」


 ほんっと助かる!思わず手をとって両手でぶんぶん感謝する。

 キャラの濃いグローバル店舗の藤宮くんじゃないとギャル店舗回せないもん!


 

 「…ッ!さ、さすがに3日ヨソにそこまで気力体力奪われたくないんですがっ」


 「えぇ~じゃあそれも明日決めよ~~…え~藤宮くんが一番適任だと思うんだけどな~~」



 じゃあ適当に食べてね、とおにぎりと小鉢を置いて6階へ。

 後ろで「性質が悪い…」と頬を赤らめているのも知らずに。



***



 6階 clubすみれ、20:15~25:30営業、木曜定休。

 ミモザがヘルプで呼ぶキャストは殆どがこのお店。


 ミモザとの違いは自動延長制ではなくセットごとに延長交渉しなければならないこと、ドレスは膝上丈であること。 

 ついでに言えば、すみれ、ミモザ、桜はタトゥー禁止。あ、眉墨はありです。

 


 ゴンゴンっと裏口をノックして

 「お疲れ様でーす、チャーリーさん居ますかー?」


 「綾瀬さんおはよ~~」


 チャーリーさんは別に外国人というわけではない。生粋の日本人だ。

 ただ、某わんこが哲学するマンガに出てくるキャラに似てるということから、みんなにそう呼ばれている。


 優しい柔和な顔で、ちょっと頭の草原が寂しい感じと言えば想像つくだろうか。



 「おはようございます、ちょっとお願いがあって賄賂お持ちしました」


 「美味しそうだね~、なになに~何でも言って~~」

 

 ひょいひょいとおにぎりと小鉢を持っていく。

 おお、トレイのもの全部食べますか。ますますふっくらしますよ。



 「来月3日ほどボーイ借りたいんですけど」


 「?いつも忙しい時はボーイもヘルプ出してるよね?」

 

 「それとは別件のお願いなんですよ、できれば岬さんで…岬さんの都合にもよりますが、岬さんを3日間」

 

 

 チャーリーさんの眉間にシワが寄る。


 「あれ?何か企んでる?」


 ですよね、バレますよねーぇ。



 「さっき思いついたとこなんで、案をまとめて明日以降お話させていただきたいな、と」


 「じゃあ岬には綾瀬さんからラブコールあったよってメールしておくね」

 


 ありがとうございます!と、店を後にしてふぅっと一息。

 とりあえず始動できそうな感じだし、ビラ配ってさっさと帰ろ。



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