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ごはんもたっぷりと食べて、青果店のお兄ちゃんにも帰ってもらった。
今夜はここに居るメンバー全員うららのヘルプに入ることを伝えると、何かあればメールじゃなくて電話で連絡してと名刺を取り出して電話番号を書いてくれた。
ついでにいつでもデートに誘ってくれてもいいよ!と渡されたので仕事用じゃないんだろう。
一応配達の下限の金額というのは存在しているんだけど知らない仲でもないし、ただのヘルプじゃないのはお察しで今夜はガム1個からでも配達するという。
え、じゃあタバコのストック補充したいから買ってきてとパシリにした。
外に買いに行く時間を短縮するために、私は更衣室のロッカーの1つをタバコ用として使わせてもらっている。
10種類程度の銘柄しか押さえていないけれど3個ずつストックしているので、在庫がフルだと30個もある。
今夜は完全に店舗内だけに集中したいからその中の10種にプラスして20種を1箱ずつキャッシャーにでも置いておこうと思っていたのだ。
タバコを買いにいくのは完全に個人的なサービスなので、お客様はタバコを欲すれば銘柄を指定して小銭を渡してくれる。
お釣りはいらないというお客様も居れば、きっちり小銭を出してくれるお客様もいるが、共通しているのはお客様も私たちスタッフも、楽しい時間に中座などありえないということ。
さほど遠くないコンビニまでダッシュで買いにいくけれど、ミモザは7階。
営業中にエレベーターを使っていいのはお客様だけ。
お客様をお待たせしてはいけない。
顔に汗などかいてはいけない。
…ストックしよう、そうしよう。
そう考えるのが当たり前だ。
それでもミモザで働く分にはまだマシで、キャストが指名客の分は各々ロッカーに用意しているしポーチに入れていたりする。
キャストたちはそこで小銭をせびることはない。
お客様がわざわざスタッフに小銭を渡してくれるのはこちらへの優しさだ。
そこで少し話したりもできる。
話しかけられるのはそもそもご法度ではあるものの、キャストが飽きられないように箸休めも兼ねている場合もあるので「お気に入りの黒服がいる!」と公言するお客様も少なくない。
「ラーメン奢ってもらった!」とキャストにアフター報告して頭を撫でられている堀くんなんかがいい例だ。
何を話したのかも逐一報告するので、キャストには話さない日々の気苦労やらもキャストは知れる。
知ったことを伝えず知らないフリをしたまま癒えるまで慈しむ。
まぁそこまで大層な話にはならなくても何がきっかけになるかはわからないんだから、備えられることには備えるに越したことはない。
今夜の備えは万端だったかな、とのんびり食後の紅茶を楽しみながら一時休止中。
ざっくばらんに最近見たドラマの話や買った服の話をしながら親睦を深めていく。
チームワークを高めるのには意外とこういうどうでもいい時間も大事だと思う。
あーあ、もったいないな、何でうららのスタッフまだ来ないんだろ。
紅茶にレモンのハチミツ漬けを足す。
やっぱり美味しい。
ああ日曜日に戻りたい。
扉がノックされたのでうららのスタッフかな!?と思って浮かれそうになった声を抑えつつ「どうぞー」と答えた。
「失礼します。…なんでこんなに和やかなんですかね、綾瀬マネ。」
お仕事モードの稲葉くんだった。
でもこっちは今はお仕事モードはオフってる。
「私のプリン王子!!超待ってた!!」
手に提げたビニール袋の中はあれは絶対プリン!
牛乳プリンを頼んだけどどうみても4つくらいある!!
やだ!選べるようにしてくれたってこと!?さすがプリン王子!!
「この世にカレーの王子がいるのは知ってたけど…」
「ああ、俺も子どもの時よく食べたなー…今食っても甘すぎてカレーとは思えないだろうけど」
「ああああれ以上に甘そう…」
「実際甘いでしょ稲葉は」
藤宮くんに松本くん、真木くんに堀くんが稲葉くんにそれぞれ言いたい放題だ。
稲葉くんは急いで来てくれたようで息も少し上がっている。
それなのに肝心のうららに居らず、事務所でまったりしている私たちを見たもんだから現状が把握できないのも無理はない。
大丈夫だよ稲葉くん!もう戦える状態なのか私もまだ何も把握してないしね!
この数時間、うららのフロアに踏み入れてないしなぁ。
プリン食べたらそろそろスーツに着替えて気合い入れなきゃね。
「プリン王子!プリンプリーズ!」
プリンはやっぱり4個しかなかったので私と岬さんはシェアした。
岬さんの「アーン」攻撃を真正面から食らって撃沈した。
逃げないように肩を抱かれていたので死ぬしかなかった。
満足げな岬さんを見て、これはこれで良かったと思うしかない。
岬さんがこの3日間ゴキゲンなら勝利はほぼ確定だ。




