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「稲葉くんどおー?」
ガサガサと音のするキッチンへと向かう。
案の定ボトルゴミも一般ゴミもそのままにされていたようで、きっちり分別してまとめてくれていたようだ。
「いや、ひどいよこの店舗」
同じ系列とは思えねぇと悪態をつきながらも手は休めない稲葉くん。
どうやらビフォーアフターごっこをしようとしたらしく、作業しながらも何枚か写真を撮っていたようでビフォーの画像を見せてもらう。
「うわぁ…」
そりゃ、週末だったよ?
きっと忙しかったろうね。
でもどの店舗もそうなんだよ。
終わったあと片付けるのも億劫だろうけど、これはない。
テーブルの上にグラスどころかアイスペールも出しっぱなし、ハウスボトルも置きっぱなしで蓋が開いたまま。
中身の入っていないおしぼりウォーマーは営業も終わったのに電源入れっぱなしで空焚き状態。
ボトル台帳も半年以上前から未記入で、どれがキープ切れかどうかも分からず数が多い。
大切な商売道具の扱いでコレなら大切な在籍キャストの扱いも察してしまう。
今すぐスタッフ呼びつけて指導したくなるけれど今は朝の5時…20分。
今夜の出勤はそう簡単に帰れると思うなよ…?と怒りが湧いてくる。
私と稲葉くんは帰るけどね!
コンプライアンス超大事だし!
「とりあえず真木くんが使いやすいようにキッチンだけは綺麗にしてあげて!」
こんな朝っぱらからキッチンの大掃除。
コンロの表面にたっぷり洗剤を吹きつけ少し湿らせたキッチンペーパーで浸け置きしたあと、シンクににゴミ袋を広げて水を貯め、ポットで沸かしたお湯を注いでぬるま湯にして、コンロのパーツをさらに浸け置きしておく。
ふやけろ!と念じている間に稲葉くんには電子レンジの掃除や換気扇、冷蔵庫の掃除を任せる。
使えそうな食材を選別するのも面倒なので冷蔵庫の中も棚の中も全部捨てていいから!と清掃に全力を注いでもらう。
場所も場所だけに、食器の片付けまで辿りつきそうにもない。
キッチンに一番近いテーブルに皿やグラスをまとめて、床や各テーブルに散らばっていたおしぼりをかき集め、ケースに入れて1回裏口へと持っていく。
キープボトルの整理はどれが期限切れでどれが常連さんのか判断がつかないので、悔しいが手をつけられない。
せめて名前順で並べておきなさいよ!と思わないでもないけれど、これも今夜の営業終了後に藤宮くんがブチキレてくれるだろう。
在庫のボトルも届いたままの箱が積まれているだけという状態だった。
これさー…古いのからちゃんと使ってるのかな?使ってないよね?
どんどん上に置いていって、上から開けてる感じ。
在庫何が届いていて何がダブついてるのか把握してないんじゃないの?
「くっそーーー!!!!!」
カッターナイフ片手に積まれている箱という箱を全部開けていく。
ケチャップ3本も出てきたぞこのやろーーー!!!
ボトルもハウスボトルが大量に出てきた。
こんなにハウスの焼酎ばっかり要らないし。
てかハウスボトルじゃなくてキープになるボトル入れておかないと勧められないじゃない。
客席の一角で未開封ボトルを種類ごとに分けてダンボールに仕舞っていく。
A4の紙に酒の名と本数を書いてダンボールの一番上に貼る。
パッと見の視角情報が一番分かりやすい。
…うん、ハウス多すぎ。
いくらミモザやすみれほど出ないと言っても、シャンパンが少なすぎる。
それにワインは無駄に上モノがある。
このランクは桜かミモザあたりでしか出ないやつだ。
…これは保存状態が気になるけれど貰っていこう。
まゆちゃんがオッケー出したらボトルじゃなくてもグラスで提供できるかもしれない。
うららはもう少し客層に合ったカジュアルなワインを揃えようか。
発注書が挟まったバインダーをレジ横で見つけたので書き直す。
「・・・・・」
ケチャップ4本目ーーーーー!!!
要るかアホーーーー!!
記入されていた発注書を破いて廃棄したあと、新たに発注書を書き直す。
それをスマホで撮って記録しておく。
午前中のうちに真木くんにメッセージ飛ばそう。
発注したもので作れる簡単なカクテルやおつまみを考えてもらおう。
…フードメニューもボトルメニューも捨ててやる…!!
今夜のオープンまでに一新してやるわ!くそったれ!
***
「スラングしか聞こえない…」
「ですね…」
離れたキッチンでも届く、委員長の叫び声。
手伝おうか?とチャーリーさんに心配されたものの、本格的に巻き込まれないうちに帰ってくださいとお願いした。
今、巻き込まれたら多分チャーリーさんは今日このまま帰れなくなると思う。
ご乱心の委員長ならすみれの副店長だろうがアゴで使うだろう。
まだ始まったばかりの一日なのに、もうすでに疲れた気がする。
でもまぁやるしかないか。
俺くらいは委員長の気が済むまで付き合おう。




