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 03:55

 アラームが鳴り響く。


 03:45から5分おきに鳴るようにセットしていたので3度目にしてようやく覚醒したらしい。

 気持ち的にはリフレッシュできた週末だったけど体力的にはあの登山はなかなか堪えたみたいだ。


 ちょっと筋肉痛かもなぁと思いつつ、ベッドを抜け出して手早く出かける準備をする。


 佐久間さんが迎えにくるまであと25分だし急がなきゃ。



 洗面所で身支度を整えながらこれからの3日間を考えて気合いを入れる。

 何に対してかは自分でもわかっていないけど「絶対勝つぞ!」と鏡に映る目が燃えている。



 保冷バッグに昨日いただいたレモンのハチミツ漬けとトマトをつめていく。

 真木くんが上手に使ってくれる気がしてならない。



 04:10

 スマホが震えて光り出す。

 たぶん稲葉くんだと思いつつも表示を見てみればやっぱり稲葉くんだった。


 ちゃんと起きてるよ、と返信してタンブラーにコーヒーを注ぐ。



 少しの洗いものと、冷蔵庫の中身を確認してから家を出ればすでに見慣れた車が待っていた。

 コンコンと運転席の窓を叩いて開けてもらう。



 「おはよーございます佐久間さん」


 少し眠そうだった佐久間さんも和らいだ顔でコーヒーを受け取ってくれたので、助手席に回ってミモザまで送ってもらう。


 

 「まろやかねぇ」


 「今日のはハワイコナです」



 週末を乗り切った疲れた体には甘いものが一番だと思ったから、フレンチプレスでじっくり時間をかけて抽出したので、酸味も控えめな甘味の強いコーヒーになっているみたいで安心した。


 

 対向車もまばらな早朝の道を、佐久間さんの優しい運転で静かに進んでいく。


 

 「今日は休ませてもらうけど…とうとう今夜ねぇ」


 「佐久間さんはしっかり休んでください!」


 

 私は気軽に休んだけれど、週末こそ稼ぎ時なんだから準備段階から営業時間中、営業後もそれなりに忙しい。

 なのに最後の最後にこんな送迎までしてもらって申し訳ない。


 ああ…始発の電車が4時台にあったらいいのに…!



 それに佐久間さんは桜の定休日である火曜、うららのホールに入ってくれる。

 


 …佐久間さんがホール!!!

 ありえない!!!


 贅沢すぎるでしょうよ!!!

 


 ぜったい全店舗休業したほうがいいんじゃないかと思う。

 たぶん皆見たいはず。

 てか私が見たい。どっかのタイミングで絶対見に行く。


 

 あっという間に着いたのでお礼を言い、店の前で降ろしてもらって事務所へと向かう。

 5時までまだ10分もある。


 いつもは上の階を目指しながら寝ているスタッフがいれば起こしていくけれど、手荷物があったので先に冷蔵庫に入れてから、ゴミ出しとスタッフの追い出しをして、それからタイムカードを切ることにする。



 こういう所で働いているからこそ、一応これでも法令遵守は気にしている。

 自分も店も守ろうと思えばコンプライアンス超大事。


 


 8階の桜は…相変わらず綺麗な店舗。

 ゴミ出しも終わってるしグラスもあとは磨き上げだけ。 

 戸締まりだけしっかりしていく。


 7階ミモザ…ゴミ出しは終わってるし、こっちもグラスを磨き上げるくらいで大丈夫そう。

 あとは発注書がバインダーに挟まれて置いてあるので確認しろってことかな。


 週末のボトルの出方を見て、日本酒がけっこー売れていたことに驚いた。

 これはコースターパワーなんだろうか?

 もう少し様子見して、要ヒアリング案件だなー。


 

 発注書にスパークリング日本酒の追加を記入して、付箋をつけて終わり。


 『日本酒に合いそうなチョコとつまみがあれば+注文希望アリ 綾瀬』



 戸締まりをして6階すみれへ。



 「あれ、チャーリーさん」

 

 「おはよ~~綾瀬さん」 

 


 珍しい。チャーリーさんが居残りでいるなんて。

 これはもうあれだ、保護者モードだ。

 


 「今日は体調バッチリ?」


 「はい!週末しっかり休ませてもらったんでたっぷり寝ましたよー」

 


 本当によく寝た。

 休むって言ってあったからか、最低限の連絡メールくらいしか回ってこなかった。


 スマホに起こされないのは有り難かったけど、なんかちょっと寂しい気もする。


 私が一人居なくても店は回る。

 代わりの居ない仕事なんてないのだ。



 だからこそこれをやる!と決めたらしっかり自分でやり遂げたい。

 まぁ色んな人を巻き込みまくってるけど。



 「今夜は私も岬さんから勉強させていただきますね」



 折角なら自分もスキルアップしたい。

 うららの為だけに尽くすなんて勿体無いことしない。



 「ははっ、そりゃ岬も燃えるだろうねぇ~~」


 何かあれば手伝うから言ってと応援されながら、すみれで出た空き瓶を渡された。


 …手伝わされてるね?

 いや、そのつもりで見回りに来てるんだけど。



 チャーリーさんに見送られ、5階の雪柳へ。


 

 ・・・・・。


 何があったんだろう。



 大量のビニールゴミと、大量のおしぼり。

 どっちも赤や黄色と原色のまぶしい色が弾けている。

 


 「あ、田中さんの死体発見」



 久々に田中さん見たなー。そういえば台湾3日以上滞在してない?

 いや別にふつうの会社じゃないんだからどれだけ休もうが店がまわってるならいいんだけど。



 「あー綾ちゃんおかえりー」


 「いやお帰りはこっちの台詞だし」


 うん、ただいまぁと眠そうに返事されソファから起き上がる田中さんにテーブルにあったペットボトルを渡す。



 「ねぇ、何やったのこれ」


 「…ペイント弾でサバゲーごっこ?」



 店でやることじゃないし両手でペットボトル持って首傾げても可愛くないよ!

 


 「いや、最初は割引をかけた的当てだったんだけど段々盛り上がっちゃって」



 最終的にはソファや壁に全部ビニールを掛けてダンボール持ち込んで盾にしたりして、土日は東軍西軍に分かれた天下分け目の大合戦になったらしい。


 袖の下と称して開いたボトルに延長料金のお札突っ込んで軍を寝返ったお客が居たり、あずきの代わりに麦チョコ詰めた袋を両端で紐で結んで「今夜は帰さないからね!」という気持ちを込めてキャストから提供させてみたり…心理戦をしつつのペイント弾の打ち合い…実力行使の残骸がこの状態。

 


 大人の本気は面白いけど怖い。

 社会に出るとそんなにストレス溜まるのか…。



 「これ…今日通常営業できるの…?」


 「大丈夫大丈夫、いつも何とかなってるしぃー♪」



 「…今夜は藤宮くんと真木くん借りてくけど大丈夫なの?」



 「だっ…ダイジョウブねー!」



 急にうさんくさい片言になったね。

 生まれは台湾でもほぼ日本で育ったくせに。


 こういう人がいるから誤解されるんじゃないかなアジア系の外国人って。

 


 雪柳のゴミは触るだけで服が汚れそうだったので、そのまま放置して4階フリージアへ。



 うん、綺麗。さっきのきったないインク汚れのゴミを大量に見た後だからいつもの3割り増しで綺麗に見える。


 ゴミもないし、さっさと戸締まりして3階うららへ。

 



 もう5時まわっちゃったなと思っていると、稲葉くんがうららの裏口で待っていた。



 「お、来た来た」


 「あれ、稲葉くん、何で?」


 「いや、今夜はうららヘルプだし片付けがてら店把握しとこーかと思って」


 

 うーん。私が言うのもアレですが…真面目か!


 「じゃゴミ出しとか色々お願いしていい?2人分のタイムカード押してくるよ」


 「おっけーおっけー先にやっとく」



 裏口の鍵を開けてから事務所に戻る。

 タイムカードを2人分押して、2人分の朝ごはんの準備もしておくことにする。


 「今日は…お粥にしようかなー」



 鶏ガラスープに生姜も刻んで乾燥貝柱も入れて…ああ、田中さんに会っちゃったから中華粥になってるなこれ。


 あとは水餃子入れたスープでもつけよ。



 ある程度下ごしらえをしてから、火を止めてうららへ向かう。

 今日の雪柳よりはマシだと思うけど…ふつうに汚そう。


 夕方も委員会が終わったらさっさと出勤しなきゃダメだろうなと思いつつ、うららの扉を開けた。



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