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稲葉くん視点。



 肩にふっと少しの重みを感じて目が覚める。

 

 すーすーと小さな寝息を立てながらニヤニヤして眠る委員長がいた。

 きっと夢の中でもピザ食ってるんだろうなと分かる、今日の昼たっぷり見た顔だ。



 時計を見ればまだ駅まで40分ほど掛かる。



 もう1回眠る気にはなれなさそうなので腕を委員長の首後ろに通し肩を抱き寄せて、少しは寒くないようにぬくもりを分けることにした。


 暇つぶしにスマホに入れてある塾の講義動画を開ける。

 頭に入ってくる気はしないけれど。



***



 初めて委員長を見かけたのはばーちゃん家の柿が残り僅かになった頃だ。


 宿題も終わって母屋でTV見ながらゴロゴロしているとピンポーンと呼び鈴が鳴った。

 回覧板か集金だろうと思って外から誰が来ようがいつもは気にしていなかったけれど、その日は気になった。


 ばーちゃんが嬉しそうに出ていったように見えたからだ。

 そうして訪問客は俺と同じくらいの子どもだと知る。


 何度かうちの庭までやってくるのを母屋から観察して、ようやくばーちゃんに「あの子だれ?」と聞いた。



 落ちてきた柿を譲ってほしいとやってきたのをばーちゃんが「落ちる前にぜんぶ持っていけ」と言い、委員長は家に持って帰ったものが無くなったらばーちゃん家に取りに寄るというルーティーンが出来ていたことを知った。



 最初に熟して落ちてきた柿は捨てればいいのに、水洗いして「絶対これも食べる」と持って帰ったのがばーちゃんに気に入られたんだろう。


 たぶん委員長もばーちゃんも勿体無い精神ではなく、「これがいい」と思ったものは絶対譲らないっていうガンコな性格同士だから仲間意識が芽生えたんだと思う。



 ばーちゃんは唯一無二だと思っていたのに、そっくりな子がいるのに驚いた。


 あの子がもっと早く生まれていれば、ばーちゃんの親友になれただろうに残念だね、と言ったら呆れたように「お前はバカだったのね」と頭を撫でられた。


 

 柿は日に日に減っていく。



 「柿が無くなったら来なくなるのかな…」


 そんな俺のつぶやきを聞いたのか聞いていないのか、ばーちゃんは庭でサツマイモを焼き始めた。

 


 案の定、委員長は目をギラつかせて狂喜していた。


 「ここは私の夢の国ですか…!それともワンダーランド、桃源郷…」


 ばーちゃんもニヤリと悪い顔をしている。

 まるで誘拐犯のようだけれど、どっちも悪い顔をしているからどうしようもない。


 まぜるなキケンってこういうことか、と思いながら庭を眺めている日々。

 


 彼女たちの中でブームになったのか、サツマイモやバナナ、りんご、サンマ、マツタケ…庭で何でも焼きまくっていた頃、たまたま部屋から台所にむかう縁側を歩いていたら出くわした。


 たぶん、彼女は離れのトイレに向かうところだったんだろう。

 少しの距離があったものの、目があったのでぺこりとお辞儀をされて俺も頭を少し下げた。


 

 その日から、縁側にその日焼いて食べたであろうものが置かれるようになった。


 

 食べなれたものならいい。

 茄子や干物は全然大丈夫、何故ここに至ったのかわからない鶏の丸焼き…であっただろう片足も、まぁ見た目はグロいけど食べられる。



 けれどその日は柿だった。



 俺の中で柿を焼くという発想はまるでなく、味も想像できない。

 冷やして皮剥いて食べるだけのものだ。


 

 なかなか手をつけられずにいるとばーちゃんが「お前もなかなかつまらない常識人ねぇ」と言い放った。


 「ばーちゃんは焼いて食べてたの?」


 「いいえ、今回が初めてだけど美味しかったわよ」



 じゃあばーちゃんもつまらない常識人だったんじゃないかと言ったらしばかれた。なんて理不尽な。

 

 とりあえず「つまらない常識人」という汚名を返上したくて焼かれた柿を口にした。



 「ね、美味しいでしょう」



 得意げに笑むばーちゃんにちょっとムカつきながらも本当に美味しかった。

 多分焼いただけでも美味しいんだろうけど、ほんのりバターとハチミツの味がする。



 「これが美味しくないなら味覚もバカよ」



 ばーちゃんから見た俺はどれだけバカなんだ。


 「美味いよ」


 悔しいけどそう言うしかなかった。

 全部食べきってから夕飯これからだったことに気づいたけど、ばーちゃんはその日は何も言わずにご飯の量を減らしてくれていた。



 柿が入っていた皿は洗って…

 その日初めて縁側にそのまま戻した。


 皿の下に『美味しかったです。ごちそうさまでした。』とメモを挟んで。



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