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副委員長視点。



 スマホで塾の通信講義を流しながら、委員長とひたすらおしぼりの袋を破いていく。





 業務用おしぼりはカゴで1階裏口にまとめて届くので、8階の店舗に必要な30本だけ回収しようとしたら、3階の黒服バイトが寝坊で遅刻してるから手伝ってくれ!とフロアマネージャーに1ケース渡されてしまった。



 おいおい…

 お前らの店19:30オープンで今17:40だぞ?


 2時間切っててまだ掃除に手ぇつけてないってイカレてるなと思いつつ、裏口から3階を覗けばフロアマネとキャッシャー兼副店長しか出勤していない。



 ケースを3階に下ろし、仕方なく電話。




 『あ、オレオレ』



 『ごめんなさい、お金ないです』



 プツっと切れる電話。何か察したな。



 『すみません稲葉です』


 『なぁにートラブルあった?』



 『また3階のバイト来てねぇからちょっとヘルプ要請された。多分開店までの雑用だからこっちでおしぼり生産するわ』



 『またぁ?りょーかーい、そっち行くわぁ。30本だけ先に作ってくれると助かる』



***



 ってことで早々に30本だけおしぼり仕上げて8階のおしぼりウォーマーに突っ込んだ後は、2人で塾の通信フォロー講義を聴き流しながら、3階フロアの端っこ席で100本ビニール剥きだ。



 「袋の破裂音のたびに大事なとこ聞き逃してそ…」


 「だよな、ワカル」



 ビニールに入ったおしぼりを縦に持ち、そのまま机に拳を叩きつけるように袋を破裂させ、中身をテーブルに取り出す。

 出たゴミは足元に置いたゴミ袋に捨てる、いわば単純作業で講義内容は意外と頭に入る。


 ただ、パンっとする音が穴埋め問題状態になってるだけで。


 パン、パパン、パン、パン…



 その穴が多すぎるだけで。



 「ちょ、これ終わったら最初からもう1回流して」


 「おっけーおっけー」



 向かいに座って黙々と雑用と講義に没頭する美少年とは目が合わない。


 いや、細身のネクタイに細身のスーツでくびれた体型もわかるし、安っぽい生地でもないしお洒落で女に見えないわけじゃあないんだけれど、オンナを前面に出していくキャストと対比するかのように「女であることを売りにしません」という姿勢が委員長を中性的な美少年にする。


 開店時間になれば、完璧なそ外ヅラ仮面を被ってより顕著に現れる。



 「うわ無いわコレ」



 嫌そうな顔しておしぼりを指先でつまみ弾く、まだ素のままの委員長。

 ビニールに油性ペンで大きく×を書き、中に捨てる。



 なぜか何枚かに1枚は綺麗に洗えてないんだよなぁ…。


 鼻水と鼻毛がカピカピになったままのモノを業者に洗濯させても落ちにくいので、できれば手洗いしてからおしぼり業者に返却するのがいいんだけど、そんな手間を惜しむ店が殆どだからこういう不良品がまぁ、まざっている。


 ちなみに委員長はあまりにもひどいと返却前のチェックで嫌そうにつまんで即ゴミ箱に捨てている。


 そゆとこは年相応の女子高生である。


 なので父親のパンツは別に洗っているだろうと思われる。

 もちろんそんな事を言ったらセクハラで訴えられ負ける。

 そしてそんな事実を知ったらあの父親は確実に泣く。



 いいことが何もないな、と思うことは口に出してはいけない。


 沈黙は金であることはこのバイトでよく学ばせていただいているのだから。



 おしぼりを剥き終わって、不良品を弾いている間にビニールゴミをまとめてもらい、動画を最初から再生してもらう。


 決して「触りたくないんだろ」とか茶化してでも言ってはいけない。

 玉子スープが無くなってしまう。



 不良品のビニール袋の口を縛って配達ケースに戻す。


 業者に返却する時に特にコレはきっちり洗ってくださいね、という無言のアピールだ。



 ピピピと委員長のスマホのアラームが響く。


 「ああ、もうこんな時間かぁ…」



 腕時計を見れば18:10


 「稲葉くん開店用の20本だけ巻いてウォーマー突っ込んでくれたら事務所でご飯にしよ」



 コピー用紙に油性太マジックで”チェック済!後はお前らがやれ!”と、でかでかと書き込み、おしぼりの山に貼り出した委員長はフロアマネに挨拶して先に事務所に戻っていった。


 寝坊したバイトも、開店直前に出勤予定だったはずの大学生黒服も、さすがに1時間前には来るだろう。


 おしぼり山の隣のテーブルを寄せておしぼりを作っていく。



 「けど20本か…優しくないな」



 思わず笑ってしまう。



 出勤してきたキャストたちがメイクで汚れた手を拭うのに使ったら、平日とは言えお客に出せるものは残らないんじゃあないか。

 なんなら遅刻してきたバイトが汗拭いて使いそうな気がする。


 まぁここで雇われてるわけじゃあないから干渉はしないが。


 1枚1枚裏表に消臭剤を拭きつけ、巻いていく。

 このフロアはレモンの香りが残る消臭スプレーか。安くさい。



 7階8階は無香タイプの消臭スプレーを使う。


 お客様にお渡しする直前にそのお客様に合わせて香り付けをするか、キャストが手持ちの香水をスプレーしていたりするので香りが邪魔になるからだ。


 あと、今日はトラブルで出来なかったが、袋を破いてチェックした後は熱湯消毒が入る。



 客層もキャストも黒服のレベルも違うから仕方ないことだとは思うが…



 「ああ、そんな丁寧にやらなくていいから40本巻いておいて!」



 それでいいのかフロアマネ。


 おしぼり山をひっくり返しながらシュシュッとスプレーを大雑把に拭きつけ配達ケースに入れていく。


 おいおい、×ついてる袋も入ってるのに一緒にするか?



 全国展開している企業だからか、黒服研修が全国各地で年に何度かあるのに何も身についてないんじゃね?


 こーゆーやつらが水商売の質もイメージもダウンさせていくんだろう。


 ×のついた袋を取り出し、ケースを持って裏口へ。

 掃除機もそこそこにテーブルセットを始めるようだ。



 非常階段に座り込み、借りたA4サイズのマニュアルファイルを机代わりに腿に置き、おしぼりを巻く。ため息しか出ない。



 あーあ、俺大人になってもこゆ店で楽しく飲めない気がする。




 んで、潔癖症じゃなかったけど布おしぼりは、あんまり使いたくなくなったわ。


 そこらのカフェにも是非、店頭メニューか扉に書き添えるか、盲導犬OKマークのようなシールをつくるべきだと主張したい。



 ”おしぼり熱湯消毒してます”のマーク、誰か作ってくれ。




 ご依頼通り40本作ってウォーマーに突っこみ、3階を後にした。俺らと歳は近いがギャル系のキャストばっかりで正直なるべく関わりたくない店舗である。


 3階 clubうらら、19:30~23:30営業、水曜定休。



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