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昔話に出てきそうな集落を見下ろす小さなバス停。
私と稲葉くん以外にも数名降りて山の中の空気を堪能する。
ああ、なるほど、世界遺産にもなった合掌造りの集落ほどではないけれど、こじんまりとした村の雰囲気がちょっとした観光地のようになっている。
のぼりと煙が出ているところは何かやっているんだろう。
軽トラ以外にも何台か車が見える。
「遅めのお昼になって委員長には悪いけど、あとであっちでピザ食べよ」
「!!!あの煙ピザなの!?」
「あそこピザ釜あるからね~このへん酪農家も居るしチーズも美味いよ」
大自然の中でまさかのこじゃれたランチタイム!!
楽しみすぎてもう食べたいんですけど…!!
「俺らが目指すのはこっちの道登ってだいたい…20分で着く家ね」
見下ろしていた景色の反対側、山ですね。
山道で20分。
・・・結構かかりますね。
いや登るけど。
ピザ遠くなるけど。
しかも道けっこう急な坂ですね。
細いし。
虫除け要ったなこれ…。
ハァハァと息を切らしながら20分間無言のちょっとした登山。
見下ろした集落はますます小さい。
たどり着いた山の中腹には人の気配はないけれど、手入れはされているとわかる家。
玄関の表札を見上げれば―――天鷲。
「たぶん、昨日綺麗にしたばっかなはずだから中入って、茶でも飲んでからバラ供えてやって」
ガチャガチャと鍵を開けてギシギシと軋む引き戸を全開にして玄関に招き入れられる。
「あ、でも冷蔵庫が無いんだよな~」と庭に出て、アニメでしか見たことないようなポンプ式の井戸で、水場にあった桶にバッシャバッシャ水を注いでそこにペットボトルを冷やす。
手馴れてるなぁ…稲葉くんって何でも出来るんだねぇ…
ぼーっと古いフィルム映画を見ている気分で玄関から眺めていると「ほら、入って入って」と奥まで招かれた。
入った部屋は、仏間でどこかで見かけたことのあるような女性の遺影があった。
「ばーちゃん、俺が中3の時に亡くなったんだけど」
「おばーちゃんらしさはないねぇ」
置かれている遺影の写真はめっちゃ若い。
白黒だけど、派手な化粧に総絞りの振袖だというのは分かる。
銀幕スターのようですね、といった感じの斜め45度振り返りましたっていうポージング。
「成人式か見合いの写真らしいよ」
「遺影に不向き!!」
「俺もそう思うけど…本人の希望だからなぁ」
稲葉くんがため息をつきながら縁側の戸を開いていくと、庭からの光がぶわっと入ってきて、山の空気が家の中に流れ込んできた。
風が気持ちいいし、開ける前もそれほどホコリっぽくなかったので、このまま俗世を捨ててここで生きていけそうな気がしてくる。
「多分、私が柿貰った天鷲のおばあさん、なんだよね?」
「そう、それで俺の母方のばーちゃん」
「死ぬちょっと前まではあそこに住んでたんだぜ、最後は病院で半年闘病だったけどな。」
で、昨日が命日だったらしい。
確かに、このおばあさんなら菊なんかより真っ赤なバラがよく似合う。
私の趣味でピンクの可愛らしい花束にしてしまって申し訳ないな、と遺影のお姉さんにごめんねと呟いた。




